身の回りにある「なぜ?」を大事にして
身の回りの出来事から「これ、なんで?」という問いを抽出することが、理科を好きになる第一歩だと村山斉さんは説く。
「見渡せばいくらでもありますよね。ちょっと外を眺めても、なんで葉っぱは色が変わるの? なぜ空は青いの? などなど。
いずれも科学的には興味深い説明をつけることができます。
もっとささやかなことだって、『なぜ?』を考えればじゅうぶん興味深いですよ。
炭酸水のボトルのフタを開けるときにすこし振ってしまうと、プシュッと音が出て中身が弾けますね。あれはなんでだろう。
ボトルを振ると、液体に溶けていた二酸化炭素が出てきて空気部分にたまります。
つまりボトル内の気圧が上がった状態になり、フタを開けると気圧の差によって中身が噴き出すことになるのですね。
ほかにもそうですね、石鹸で手を洗うと汚れがきれいに落とせるのはなぜでしょうか?
たしかに水だけじゃ落ちない油汚れなんかも、石鹸を使うとすっきり落ちますよね。水と油は互いに反発するので、水で洗っても溶け出してこないのです。
そこに石鹸が加わると、石鹸の分子は油にくっつきたがる部分と水にくっつきたい部分の両方を持ち合わせているので、まず油とくっつく部分が手から油を引き離します。
そののち、水を流せば水にくっつく部分の作用で油がともに流れ去っていくわけです」
なるほど石鹸の効果がそんなふうに生じていたとは。解説してもらうと、ひじょうに納得がいくものだな。
授業で習うことと身の回りのできごとを結び付けて
ただ、ひとつ心配ごとがある。石鹸で汚れが落ちるしくみを知るのはたしかにおもしろいが、そうした学びを重ねることは理科の成績に結びつくだろうか。受験に向かう学力を培うことになるのかどうか。
「石鹸が持つ親水基と親油基という特徴は、中学の理科で習う内容ですよ。
それに、手を洗うという行為が分子や原子の世界と関係しているのだとあらかじめ知っていれば、学校の授業で分子や原子が出てきたとき、抵抗感なく学べることにもなるのでは。
そんな目に見えないものの勉強をして何になるんだ?といった疑問を持つことなく、かなりとっつきやすくなるとは思うんです」
そう考えると、理科の授業でおこなわれる実験の時間というのは、きちんと取り組むべき貴重な体験だ。
「そうですよ、ちゃんとやったほうがいいです。習う内容にピンとくるかどうか、身近に感じられるかどうかで、理科に対する意欲や知識の定着は大きく変わってきますから」
学校で学ぶことは机上の空論でもなければ、単なる記号の羅列でもない。
我々の生活と密接につながっていると知れば、勉強におもしろさを見いだすのもたやすくなりそうだな。
村山斉 1964年3月21日生まれ。物理学者(素粒子物理学)。米国・カリフォルニア大学バークレー校教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者、教授。国際基督教大学高等学校卒業後、東京大学理学部に進学。東北大学の助手を経て米国に渡り、研究活動をおこなう。
* *
「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※村山斉さんのインタビューは、8月12、14、16、19、21日に全5回配信します。今回は第2回でした。
外部リンク