あなたに手紙を書きます。言葉づかいが心配な親のあなたに手紙を書きます。
私は小学4年生まで、母親を「ママ」と呼んでいました。ある日、授業参観に来た母に「ママ」と言ったら、クラスの女の子にクスクス笑われました。
その瞬間、不思議なくらいはずかしい気持ちになりました。
それ以来、家でも「ママ」と呼べなくなりました。「ママ」は、家庭内の言葉で、他人の目のある社会で発するのははずかしいこと。
そのころから、私は自分のことを「おれ」と言うようになりました。言葉づかいが悪くなっていきました。
考えてみれば、これは成長の一つだと思うのです。
言葉には、仲間に合わせる「社会の言葉」があります。大抵は大人ぶって、不良じみた言葉ですが、それを身につけるのも生きる術だと思うのです。
しかし、だからといって、ここで親のあなたがあきらめてはいけません。
社会には仲間だけでなく、見知らぬ人や年上の人もいます。
いろいろな人たちに通用する言葉として「敬語」があることも、子どもに教えたいものです。
方法は一つ。親のあなたが、いつも美しい言葉を使うこと。それを絶対に曲げないことです。
そうしていれば、中学、高校に進み、社会にはいろいろな人がいることを知った子どもは、必ず親であるあなたの言葉にもどってきます。
その日が来ると信じ、自分の言葉を整えてください。社会に出た子どもは、ひそかにそれをまねします。
言葉の家庭教育とはそういうものです。
ひきた・よしあき 博報堂のスピーチライター、博報財団コミュニケーション コンサルタント。
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