妊娠高血圧症候群と診断された人に起こる子癇(しかん)について、あまりよく知らない人も多いのではないでしょうか。子癇は妊娠中や出産の際に、お母さんや赤ちゃんの健康状態に深く関わりがあります。今回は、子癇がお母さんと赤ちゃんにどのような影響を及ぼすのか、子癇の治療や出産について解説します。
子癇(しかん)とは?
子癇は妊娠高血圧症候群を発症した妊婦さんに多く起こる全身痙攣(けいれん)です。てんかんや過呼吸、脳出血と症状が似ていますが、妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こしたものをいいます。妊娠中や出産時、出産直後に発症することが多く、1万人のうち4人程度が発症します。子癇が起こる理由として、血圧が高いと脳の血流が増え、脳がむくんで痙攣発作を起こすと考えられていますが、ハッキリとしたことは分かっていません。子癇が発症するリスクが上がる要因としては、妊娠高血圧症候群以外に10代の妊娠、初産婦、双胎(ふたご)、極端な体重増加、以前の分娩で子癇を起こしたことがある、などがあります。当てはまる条件が多いほど発症のリスクも高くなります。
子癇の痙攣発作の直接的な誘因となるのは、分娩室のライトによる光刺激や浣腸、尿を管で出す時、手足の冷えなどです。身体的刺激が多いですが、精神的ストレスも子癇を誘発します。
子癇がお母さんと赤ちゃんへに与える影響
子癇の痙攣発作が起こると、お母さんは体のいろいろな場所で血液が固まり、固まるべき場所では出血が止まらなくなったり、脳出血、臓器不全を起こしやすくなるなど、命にも関わる状態となります。また、痙攣発作がおさまらない場合には、意識が戻らず亡くなってしまうこともあります。
おなかの赤ちゃんも非常に危険な状態となります。もともと子癇のほとんどの人が発症している妊娠高血圧症候群では、おなかの赤ちゃんへ十分な量の血液が届かないことがあります。成長発達や生きるために必要な酸素や栄養が足りないと、低体重児の出産やおなかの赤ちゃんの心拍に異常をきたすことがあります。子癇発作が起こると、おなかの赤ちゃんにはさらに血液や酸素が送られにくい状態となるため、すぐに子宮から出してあげないといけない、命の危険を伴う状態(胎児機能不全)に陥る可能性が高くなります。
子癇になったらどうすればいいのか
分娩中には血圧測定などの検査が適宜行われます。血圧が上昇して160/110mmHg以上になったり、子癇の前兆がおきた場合には、子癇が起こる可能性が高いです。子癇になったら、痙攣で分娩台から落ちる危険があるので、手や足を固定されます。また、できるだけ刺激が少なくなるように、ライトを暗くした環境で出産となります。痙攣発作が起きないように、点滴によって血圧を下げる薬や痙攣を予防する薬が持続的に注入されます。もしも、痙攣発作が起きたときには、酸素吸入や唾液の吸引が必要です。発症してもお母さんの状態が安定すれば、速やかに出産できるよう最適な方法が考慮されます。子宮口の広がり方が十分でないときは、緊急帝王切開となることもあります。
子癇の前兆症状
子癇を起こす方の多くは、妊娠中からもしくは出産の時に血圧が上昇し、同時に尿蛋白や浮腫もみられます。妊婦健診の際に血圧測定や尿検査をするので、出産までに子癇のリスクである妊娠高血圧症候群は発見されているはずです。子癇の痙攣発作が起こる前には、目のカスミやチカチカと光が見えたり、みぞおちのあたりが痛くなったり、強い頭痛が続いたりといった症状が多くみられます。そのため、出産の時や出産直後に、子癇の前兆症状があったら医師もしくは助産師さんに必ず伝えてください。
子癇は予防できる?
子癇を起こさないようにするには、妊娠期間中に高血圧にならないことです。食生活や1日の過ごし方など、血圧が高くならないように気をつけることで、子癇を予防できる可能性があります。急激に体重が増えると血圧が高くなるので、体重管理が必要になります。過剰なカロリー摂取だけではなく、必要以上の塩分も摂らないように食事には注意しましょう。また、睡眠不足や疲労、ストレスも自立神経のバランスを崩すため、血圧が高くなる可能性があります。昼寝などで睡眠時間を確保して、疲れを残さないように心がけることも大切です。好きな音楽を聞くことや適度な運動、趣味を行える時間をつくって、リラックスして楽しい時間を過ごすのもよいでしょう。
まとめ
妊娠中に妊娠高血圧症候群と指摘されたことがある方は、子癇を起こすリスクがあります。子癇が起きた場合は、お母さんと赤ちゃん共に危険を伴う可能性があるため、高血圧にならないように予防方法を試してみると良いでしょう。
監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生
京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
ベビーカレンダー編集部