早朝、箱根の山を越えて
深い山々に囲まれた箱根の芦ノ湖には、大きな観光客船、その名も「箱根 海賊船」が浮かんでいます。全部で3隻ある海賊船は、どれも500人以上を収容することができる規模のもの。たとえばそのなかの1隻「ロワイヤルII」は、全長35m、全幅10m、定員は565人です。
もちろん、それ相応の造船所で建造されたものと推測されます。調べてみたところ「ロワイヤルII」の建造には、造船大手であるジャパンマリンユナイテッドの鶴見工場(横浜市鶴見区)が関わっていました。
芦ノ湖に浮かぶ「ロワイヤルII」。2013年に就航した(画像:箱根観光船)。
スワンボートのような小型の舟ならともあれ、あのような大型の船を、東京湾に面する造船所から天下の険ともうたわれた山奥の湖へ、どのようにして運び浮かべたのでしょうか。海賊船を運航している箱根観光船に聞きました。
――海賊船は、どのように建造しているのでしょうか?
芦ノ湖に3つある港のうちのひとつ、桃源台港の乗り場のすぐ横に船のドックがあり、そちらで造船工場から運ばれてくる部品を組み立てて建造しています。
「ロワイヤルII」の船体部品が芦ノ湖のドックへ搬入される様子(画像:箱根観光船)。
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たとえば「ロワイヤルII」の場合、前述のジャパンマリンユナイテッド鶴見工場から、深夜や早朝のひと気の少ない時間帯に、部品の状態で大型トレーラーにて運ばれてきたそうです。横浜の鶴見区から芦ノ湖までの道のりでは、箱根の山を越える必要があります。海賊船は、そのような工程を何度も繰り返し、約3~4か月の建造期間とその後の試運転を経て、客船としてのデビューを飾るのだそうです。
なお芦ノ湖のドックは、船を組み立てるほか、メンテナンスなどにも使われているといいます。
なぜ山奥に海賊船?
ところで、山に囲まれた芦ノ湖に、なぜ「海賊船」なのでしょうか。さらに話を聞きました。
――なぜ海賊船なのでしょうか?
話は、1964(昭和39)年の東京オリンピックの頃にさかのぼります。当時の社長は、ただ船をつくるのではなく、家族連れや外国からの観光客が楽しめるような、夢のあるものをつくりたいと考えていたそうです。そして、アメリカにあるテーマパークを視察した結果、海賊船がいいのではという話になったとのことです。
「ロワイヤルII」建造中の様子(画像:箱根観光船)。
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海賊船がはじめて芦ノ湖にデビューしたのは1964(昭和39)年7月、新幹線開通と同じ年のことでした。退役したものも含め、これまで6隻が建造されたとのことです。
【写真】「ロワイヤルII」箱根越え
「ロワイヤルII」の船体は分割され、大型トレーラーで運ばれた(画像:箱根観光船)。