あなたに手紙を書きます。「子どもが言うことを聞かない」となげく親のあなたに手紙を書きます。
私が初めて一人暮らしをした時のこと。家事を母に任せきりだった私は、料理も洗濯もできませんでした。一人になって、手に入れた自由以上に、生活力のかけらもない自分にあ然としました。何とかしなければなりません。掃除し、煮物を作り、ふとんを干す……。一つひとつ挑戦していきました。
ある日、ふとんにカバーをつけている自分の姿が鏡に映りました。驚きました。母そっくりだったのです。正座の仕方、ふとんを広げた時の腕の感じ、首の曲げ方。ふとんカバーなど一度もつけたことがないのに、いつの間にか、私は学習していたのです。母をお手本にしていたのです。
シスターだった渡辺和子さんは、「子どもは親や教師の『言う通り』にはならないが、『する通り』になる」と言っていました。私のふとんカバーつけも、母の「する通り」でした。
あなたの子どもも同じです。「言う通り」にしなくても、あなたの「する通り」に必ずしています。「言うこと」よりも「すること」から、ずっと多くを学んでいるのです。
だから、なげくことはありません。あなたの「すること」に心がこもっていれば、必ず子どもには通じています。「言うこと」は聞かなくても、「すること」にはこわいほど従順。それが子どもという存在です。
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ひきた・よしあき 博報堂のスピーチライター、博報財団コミュニケーション コンサルタント
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