火災保険と地震保険、それぞれの補償内容は?
自然災害は、家や家財など、大切な財産に大きなダメージを与える。そのリスクに備える方法の一つが、保険に加入することだ。とはいえ、どんな保険に入れば、どんな補償が受けられるのか、わかっていない人は意外に多いのではないだろうか。そこで、損害保険のプロ・平野敦之氏に、自然災害に備える保険について教えてもらった。
基本の「火災保険」。注意すべき点は?
自然災害に備える保険は、火災保険が基本です。
火災保険の補償対象は、火災だけではありません。ガス爆発や盗難、漏水事故などの他、落雷や水災、「風災・雪災・雹災」も対象になっているのが一般的です。
地震や火山の噴火、また、それらに伴う津波については、別途、地震保険に加入する必要がありますが、地震保険は単体で加入することができず、火災保険とセットでしか入れません。
火災保険も地震保険も、専用住宅なら、補償対象には「建物」と「家財一式」の二つがあります。加入する際は、持ち家なら、両方ともか、建物だけを補償対象にするといいでしょうし、賃貸なら家財一式が補償対象になります。
水災は火災保険の補償対象になっていると述べましたが、各社から出ている様々な火災保険の多くは、水災を補償対象から外すこともできるようになっています。
具体的には、多くの火災保険が三つから六つほどの補償プランを用意しており、水災を補償対象にしないものも選べるようになっています。
また、ネット系の損保会社を中心に、火災や落雷などを基本的な補償対象として、水災や「風災・雪災・雹災」などについては自分で選ぶようになっている商品もあります。
水災で保険金を受け取るための要件は多く、基本的に床下浸水は対象になりません。損保会社によって違いますが、床上浸水、もしくは地盤面から45cmを超える浸水であることなどが要件になっています。マンションの上階や高台に住んでいて、床上浸水などの心配がない人が、水災を補償対象から外して保険料を安くすることができるようになっているわけです。
木造の家だと、床下浸水でも基礎や柱に損害が出ますが、多くの場合、補償対象外です。
一方で、土砂崩れは水災に含まれます。ですから、床上浸水の心配がなくても、裏山があったりすれば、水災も補償対象に入れることを検討したほうがいいでしょう。
水災を補償対象にするかどうかの検討に際しては、国交省が発表しているハザードマップなどを見たり、昔からの住人に話を聞いたりして、自分が住んでいる地域のリスクを把握すること。一戸建てなのか、マンションなのかなど、住宅の特性も考慮してください。
保険料が高いと感じれば、免責金額をつけたり、損害額の一部を自己負担に設定したりすることで、安くすることもできます。
水災は保険金が支払われる要件が細かいので、よく確認する必要があります。支払われる保険金の額も、会社によって規定が違います。
古い火災保険には水災が対象外のものも
火災保険は、1998年に自由化されました。それ以前は、住宅用の火災保険は、「住宅火災保険」と「住宅総合保険」の二つの商品の販売が中心でした。
会社によりますが、これらは2009年頃まで販売されていましたし、15年10月の改定までは、火災保険の契約期間は最長36年だったので(改定後は最長10年)、今もこれらに加入している人も少なくないと思います。
このうち、住宅火災保険は、水災が補償対象になっていません。また、住宅総合保険は、水災も補償対象になっているのですが、最大でも損害額の70%までしか補償されません。
住宅を買ったときに35年ローンを組み、同時に35年契約で火災保険に入ったあと、補償内容を確認せずに放置している人もいるでしょう。もしそうなら、いざというときのために、加入している火災保険の補償内容を確かめておきましょう。
今の火災保険と違って、住宅火災保険や住宅総合保険を超長期で契約した場合は、建物の価値を時価で評価するので、時間が経つにつれて支払われる保険金が少なくなっていくという特徴もあります。
ただ、住宅火災保険や住宅総合保険に入っている人は、今の火災保険に切り替えたほうがいいのかというと、そうとも限りません。保険料が高くなるケースが多いからです。被災するリスクを考えて、どうするか判断するのがいいでしょう。
他の保険と大きく違う地震保険の特殊性とは?
地震保険は、火災保険など、他の保険と性格が違います。火災保険と一緒に加入するので混同している人が多いのですが、まったく別の制度です。
保険は、皆でお金を出し合って、困った人がいれば、そのお金で助け合うという、相互扶助の考え方で運営されています。
しかし、地震は多数の人が同時に被災するので、相互扶助の考え方がそぐいません。
そのため官民一体で運営されていて、どの損保会社で加入しても同じ内容になっています。
また、支払われる保険金についても、火災保険と大きな違いがあります。損害額がいくらなのかに関係なく、建物が「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の四つの区分のどれに当たるかによって、受け取る保険金が決まるのです(家財一式についても同じ4区分で鑑定される)。
例えば、全損だと鑑定されれば、契約した保険金額の100%が支払われます。ただし、地震保険の保険金は、火災保険の30~50%の範囲でしか設定できません。例えば、2000万円の火災保険をかけている家であれば、地震保険の保険金は600万~1000万円の範囲でしか設定できないのです。しかも上限額もあり、建物については5000万円までしか支払われません(家財一式については1000万円が上限)。
また、門塀が崩れただけだと、建物の主要構造部(柱など)に損害が生じていないので一部損にも当たらないと鑑定されて、保険金はゼロです。
地震保険の保険料は安くはありませんから、こうした補償内容では不満だという人もいます。しかし、いざ地震が起きて被災したときに加入していないと困る可能性もありますから、加入するかどうかは考え方次第でしょう。いずれにせよ、地震保険の特殊性を理解しておくことが重要です。
ちなみに、地震による火災で家が焼けた場合は、火災保険ではなく、地震保険の補償対象になります。地震保険に入っていなければ、保険金をもらえません。
地震保険の保険料はもう一度引き上げられる
地震保険の支払い区分が「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の四つになったのは、17年1月の改定からです。それ以前は、「全損」「半損」「一部損」の三つでした。地震保険の契約期間は最長5年ですから、今は、この両方の区分が併存している時期です。
このため、感情的には納得できないところもあると思いますが、同じ被害を受けても、地震保険を契約した時期によって違う区分に鑑定され、支払われる保険金の額も違うということが起こります。
17年1月の改定では、全国平均の保険料も引き上げられました(下がった地域もある)。東日本大震災のあと、14年7月に一度引き上げられたのですが、さらなる引き上げが必要だということになったからです。ただ、一気に引き上げずに3回に分けることになり、その1回目が17年1月だったのです。
2回目は19年1月に改定。3回目の改定の詳細はまだ発表されていませんが、21年1月とも言われています。いずれにしても、もう1回引き上げる予定であることは確かです。
「共済」でも自然災害に備えられる
地域や職業によっては、共済への加入を勧められることもあると思います。
共済は保険とは違う仕組みで、県民共済や全労済、JA共済など、共済同士でも仕組みが違います。
例えば全労済だと、「住まいる共済」の中にある「自然災害共済」が、水災や地震などの自然災害を補償対象にしています。地震の場合、100万円を超える損害がないと地震等共済金(保険でいう保険金)が支払われず、見舞金などだけという内容ですが、軽微な被害だと支払いがないのは地震保険と同じだと言えます。
共済は非営利なので、共済掛金(保険でいう保険料)が安く、一方、補償内容がそれほど手厚くないこともあります。保険とどちらがいいとは言えませんが、内容をよく確認するようにしてください。
保険に入っておくべき人の三つの条件
自然災害で損害が出た場合は、すぐに損保会社に連絡をして、保険金の請求をしましょう。
特に、大規模な災害だったり、昨年のように各地で災害が頻発したりしていると、被害の程度を鑑定する損害保険鑑定人が多忙になるので、早く声をかけるのがいいでしょう。
場合によっては、保険の契約をしていた家族が亡くなってしまい、保険契約の詳細がわからなくなることもあります。
もしそうなったら、日本損害保険協会に問い合わせること。大規模な災害なら、日本損害保険協会が特設サイトを作るので、そこにアクセスしてください。
すると、各損保会社の連絡先がわかりますし、契約している会社がわからなければ、その調べ方もわかります。
実際に鑑定にかかる時間は、特に地震の場合は早く、通常はその場で結果が出ます。
昨年は災害が多かったので、損保会社のOB・OGの活用の他、ドローンを利用したり、映像で遠隔鑑定をするなど、さらに効率的な鑑定方法を取り入れて対応したと聞いています。
最後に、自然災害に備えた保険には入ったほうがいいのかどうか、私の見解をお話ししましょう。
私は、次の三つのいずれかに当てはまる人は、入る必要性が高いと考えています。
(1)住宅ローンの残債が多い人
(2)保有している資産が少ない人
(3)被災したときに収入が止まる可能性がある人
保険は、一度入ったら、ずっと入っていなければならないものではありません。保険料が高く感じたら、住宅ローンの残債が減ったところで見直すなどすればいいのです。
平野敦之(ひらの・あつし)
平野FP事務所代表
1967年生まれ。東京都出身。大学卒業後、証券会社、損害保険会社などを経て、98年に独立。生命保険、交通事故、火災、自然災害から漏水事故、自転車などの賠償事故まで、多くの保険の現場に携わってきた。相談・講演・執筆活動を展開する。お金の情報メディア『Mylife Money Online』を運営。(『THE21オンライン』2019年4月号より)