グラウンドに子どもたちの声が響かなくなって久しい。「寂しいですね」。湘南ベルマーレの下部組織を統括するアカデミーダイレクターの太田隆一さんは胸中を口にする。
「目標に向かって輝いている子どもたちの姿がどれだけ僕らの励みになっていたか。早くボールを蹴らせてあげたい」
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い下部組織も活動を自粛するなか、湘南は「BELLMARE DREAM BOX(ベルマーレドリームボックス)」を立ち上げた。
神奈川県内在住の小学5・6年生を対象にプレー動画を投稿してもらう、ベルマーレ独自のオンラインによるスカウト活動だ。
小学生年代の才能の発掘に携わり、これまで100人以上の選手をスカウトした実績を持つ太田さんは、子どもたちがこの時期にプレーできないことの意味を指摘する。
「とくに6年生は進路を決める大事なタイミング。我々もスカウトの場が失われて困っていたので、窓口をつくれば子どもたちがチャンスを掴めるのではないかと考えた」
「見えないところを見る」努力
オンラインスカウトの構想自体は以前より温めていたという。さっそく4月なかばに募集を始めると、投稿は日を追うごとに増した。5月には地域を日本全国に広げて第2弾を展開している。
「まず見るのはストロングポイントがあるかどうか」。太田さんは言う。
「プロになるには特長が必要。またウィークポイントはあるか、あれば改善が可能かどうか。その子が今後どうなっていくか、いまは見えないところも我々は見なければいけません」
「不合格はない」
アカデミーのコーチ陣は、ひとり最大60分に及ぶ動画を寝る間を惜しんで確認する。目に留まった選手には活動再開後にプレーをチェックする機会を設ける予定だ。また、たとえその場に招待されなかったとしても扉が閉ざされるわけではない。
「今回動画を送ってくれた子どもとベルマーレは確実に繋がります。繋がったことでこちらから見に行くこともあるかもしれない。だから、不合格はないんです」
世界に繋がる「窓口」として
世界的にも珍しいというこのオンラインスカウトを、将来的には通年で使用できるシステムとして確立したいという。
「世界に向けて窓口を開くことができたら」
そう今後を見据える太田さんは、なにより子どもたちのこれからに想いを馳せる。
「自分のプレーをダメ出しされるのは怖いもの。応募するのには勇気がいる。今回はうまくいかなかったとしても、自分から夢を掴みに行動を起こした経験は、今後も一歩踏み出すきっかけになると思います」
日常が戻ることを心待ちにしながら、まだ見ぬ才に光を照らす。ベルマーレが贈る「夢の箱」には、子どもたちの可能性が詰まっている。
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