研究家と朝小リポーターが奈良を歩く
夏の夜にこわい話を聞いたり、肝試しをしたりする人もいるかもしれません。ちょっとこわいけど、妖怪に会いたい――。朝小リポーターが、鬼やかっぱなどの言い伝えが多く残る奈良県で妖怪を研究する木下昌美さん(31歳)と、妖怪にまつわる場所を訪ねました。はたして、会えたでしょうか。(中塚慧)
夜のお寺にオウテクレババ
木下さんは3年前から、奈良県に残る妖怪の記録や言い伝えを紹介する月刊電子新聞「奈良妖怪新聞」を発行しています。記事では鬼やてんぐ、かっぱなどを、文献で調べたことや地元の人の話で伝えます。
木下さんと朝小リポーターのSさん(小6年)が訪れたのは、奈良市の興福寺です。「ここは、オウテクレババが出たといわれるところ」。三重塔の前で、木下さんが教えてくれました。
「オウテクレババ」は、「おうてくれ(背負ってくれ)」と言って、人の背中に乗ろうとする妖怪とされます。奈良の歴史を記した文献に記録があります。夜、三重塔や北円堂のまわりに出るとされ、うっかり背負うと頭からかじられることもあるのだとか。
木下さんが奈良妖怪新聞の取材で会った60代の女性は、おじいさんからオウテクレババの話を聞きました。おじいさんが子どものころ「オウテクレババが出てくるかな」と、三重塔に石を投げたことがありました(みなさんはまねしないでください)。すると、塔の最上階の扉が開いておどろいたそうです。
女性は「こんな話だれも信じないから、聞いてくれてよかった」と喜んだといいます。
2人は、元興寺(奈良市)の鬼がにげこんだと伝わる市内の「不審ケ辻子町」にも行き、想像を広げました。
かわいいものも
「妖怪はこわいですか?」。Sさんの質問に、木下さんは「実は、かわいいものもまぬけなものもいるんだよ」と教えてくれました。
「かわいい」妖怪の一つが、「べとべとさん」です。民俗学者の柳田国男さんが書き記し、まんが家の水木しげるさん(どちらも故人)が絵にして有名になりました。夜道を一人で歩いているときに、後ろをひたひたとついてくる妖怪です。
昔の人の生活知る楽しさも
木下さんはなぜ妖怪の研究家になったのでしょう。小学生のころは朝小の読者でした。読書も好きで、『おとうさんがいっぱい』(三田村信行さん作)などのこわい話が心に残りました。そこから興味を広げ、大学で鬼やおばけを研究しました。
「調べる人がいないと妖怪は消えてしまう」。妖怪を通じて、地域の歴史や昔の人の暮らしを知れるのが楽しいそうです。
Sさんは、妖怪を目で見ることはできませんでした。でも、「暗い夜になれば妖怪が出てもふしぎではないなと感じた」と言います。
妖怪に会いたい子どもに向けて、木下さんはこう話します。「映画『となりのトトロ』のトトロは、子どもだけが会える。子どもには、ふしぎなものを見つける力があるかもしれない。その心を大事にしてくださいね」
きのした・まさみ 1987年、福岡県生まれ。奈良県の地元紙記者をへて、2015年フリーに。この夏、子ども向けの『すごいぜ!! 日本妖怪びっくり図鑑』(絵 しげおか秀満、辰巳出版)を出版。記念のトーク&サイン会が8月18日午後2時から、啓林堂書店奈良店(奈良市)である。
外部リンク