高校生たちが黒板を巨大なキャンバスとして、チョークで描き出したアート作品のコンクール「日学・黒板アート甲子園」の、今年の入賞作品が決まりました。
高校生部門への応募総数は過去最高の88校の145点。受賞作品の一部を紹介します。
入賞の常連校のメンバーに、黒板アートのコツも教えてもらいました。(八木みどり)
料理の質感 試行錯誤
【最優秀賞】福島県立会津学鳳高校美術部 「おせち料理」
最優秀賞は、福島県立会津学鳳高校(福島県会津若松市)美術部の2年生5人で描いた「おせち料理」。
タイトルそのままに、黒板全体を、おせち料理の重箱を広げた状態に見立てて数々の料理を描きました。
題材を決めるに当たり、過去の入賞作品を研究したという5人。
長谷川藍さんは「動物は多いけど、食べ物は少ないのでは……ということと、黒板の長方形をそのまま生かしたいと考え、おせちを選びました」。
佐藤有珠さんは「だて巻きのふわふわ感や、煮しめの素材感など、料理の質感を表現するのが難しかった」と振り返ります。
黒板アートには今回が初挑戦。色をどう重ねて、きれいに発色されるかなど、試行錯誤の連続だったそうです。
メンバーそれぞれ、描き方に個性があるので、一つの作品として最終的に統一感を持たせることにも苦労したそうです。
10日間ほどかけて完成させた力作。
コンクールへの応募のために写真撮影をした後は、作品は全て消してしまうという学校が多い中、学鳳高では少なくとも7月ごろまでは作品を保存する予定だといいます。
最優秀賞を受賞し、長谷川さんは「もう、永久保存したいくらいです」。
技術面でさまざまな苦労があったことから、佐藤有珠さんは「来年は、挑戦してみたいという後輩がいたら、サポートに回り、私たちが学んだことを伝えていきたいです」と話しました。
感情、動きを描き出す
【優秀賞】埼玉県立大宮光陵高校・Emotion quartetto 「蛸の憤怒」
優秀賞に選ばれた作品の一つ、「蛸の憤怒」を描いたのは埼玉県立大宮光陵高校(さいたま市)3年生の4人組「Emotion quartetto」。前回大会では最優秀賞に選ばれている実力チームです。
「ヌメヌメしすぎ」「割と無理」など、悪口が書かれた黒板を見つけたタコが、怒って黒板を勢いよく蹴破ってきた……という場面を描いたユニークな作品です。
普段から仲が良いという4人。大髙聖依さんは「黒板アートを通して、人と一緒にものを作る喜びを感じました。
そういう出会いをくれた黒板アートに感謝しています」。おしゃべりをして、ふざけ合いながら完成させた作品です。
小田切春璃さんは「ドンチャン騒ぎながら4人で過ごした時間があるから、高校生活のいい思い出になりました」と話しています。
光陵高からは、ともに3年の大井歩珠さん、遠藤理那さんによる「日本」も、審査員特別賞に選ばれています。
入賞常連校に聞く制作のヒント
チョーク40種類以上を使い分け
大宮光陵高は、2016年にコンクールが始まって以来、毎回入賞作品を出している強豪校。制作技術の一部を教えてもらいました。
チョークはチョークでも、原料が異なると質感が違い、メーカーによっても微妙に使い心地に差があるそうです。光陵高が使ったチョークは40種類以上!
同じ「白」でも、炭酸カルシウムからできているものは硬いので細い線を描くときに。
石こうカルシウムからできたものは、軟らかいので広い面積を塗りつぶすのに向いているといい、描くものによって適宜、使い分けるのだそうです。
絵の具と比べて色数が限られるチョークですが、異なる色のチョークを使って線を格子状に重ねていく「ハッチング」という技法を使えば、自在に色を生み出すことができるといいます。
例えば、肌の色を作りたいなら黄色と白色、オレンジ色を重ねていきます=(1)。
指やブラシでぼかせば、より自然に=(2)。
色を重ねるバランスを変えれば、グラデーションも表現できます=(3)。
「蛸の憤怒」で、タコが飛び出してくる時の水しぶきの描き方にも工夫が。チョークを砕いて水に溶かしたものを筆に付け、黒板にしぶきを飛ばしています。
細かい部分の修正には綿棒を使用。黒板というキャンバスの大きさからは想像できないほど、繊細な作業を経て作品が生み出されています。
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