『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』
生命観を明らかにする学問
「理科、とくに生物学を学ぶというのは、本当におもしろいことなんです」
と、長年にわたって生物学を研究してきた福岡さんが、みずから強調する。
ならばさらに、「理科のすすめ」を大いに語ってもらおうではないか。
「人がなぜ脈々と、時代を超えて理科を研究してきたのかといえば、私たちを取り巻く世界、すなわち自然の成り立ちを知りたいからです。
自然というと夏休みに行く海や山を思い浮かべるかもしれないですね。それらはもちろん大自然ですが、そんな遠出をしなくたって、じつはだれの近くにも自然は存在します。
私たちに最も身近な自然は、私たちの身体です。
自分がいつ生まれていつ死ぬかは、だれにもコントロールできませんよね。いつどんな病気になるかもわかりません。
考えてみれば私たちの身体や生命は、自分ではまったく予期せぬかたちで、勝手にうごめくものとしてそこにあります。
そんなすぐそばにある自然のうごめきの、しくみや理由をよりよく理解するために、私たち人間は、勉強や研究を重ねています。
生物学というのは、人が生きているとはどういうことかという『生命観』を明らかにするもの。自分自身のことをもっと知るために、この学問はあるのだといえます」
教科書の知識は「分解」で明らかになったこと
自分の身体を顧りみれば、それが自然を捉えることになり、生物学の探究にもつながるというわけだ。
そう考えれば楽しそうではあるのだが、実際のところはいざ理科の勉強をするとなれば、あれこれ細かいことを覚えなくてはいけなかったりする。
とくに生物は、暗記しなければいけないことが、やたらたくさんある印象なのだが……。
「そうですね。まずは学問への入口として、用語などを頭に入れる必要がどうしても出てきます。そこは基礎トレーニングとして、なんとか取り組んでいただくしかありません。
生命を理解するために人がしてきたのは、基本的にたったひとつのこと。それは、分解です。
ラジオのしくみを知るには分解してみるのがいちばんわかりやすいでしょう。それと同じように、生命も細かいパーツに分ければしくみがわかるはずだと人間は考えてきました。
それで細かく観察していくと、人間はどうやら無数の細胞が集まってできているとわかった。
細胞の内部をさらに詳しく見てみると、たんぱく質や遺伝子、DNAといった要素でできているらしい。DNAのかたちはどうか。どうやら二重螺旋構造をしている……などなど。
分解して調べるというアプローチは、近代科学の始まった17世紀あたりからずっと、積み重ねられてきました。
そうした手法によって明らかになった成果が、教科書にはまとめて書いてあり、私たちはそれらを覚えさせられてきたわけです。
生物の教科書には、生命にかかわる部品の名前がカタログみたいに羅列してあって、ひと通りそれを覚えなくちゃいけないことになっています」
何事も基礎は大切だから、学年に応じた教科書レベルの内容は、マメに覚えていくしかなさそうだな。
ただ、そうはいっても、理科の用語はミトコンドリアだとか何だとか、覚えづらくてややこしいものが多いし、無味乾燥に思える面もある。
基礎を覚えるにあたって、何かいい方法はないものだろうか。
「ひとつあります。用語をむりやり覚えようとするのではなくて、生物学そのものの歴史を知ろうとすればいいんです」
どういうことか。次回、福岡さんから直接教えてもらうぞ。
福岡伸一 1959年9月29日、東京都生まれ。生物学者。青山学院大学総合文化政策学部教授、ロックフェラー大学客員教授。京都大学大学院で学んだ後、米国のロックフェラー大学やハーバード大学で研究活動をおこなう。京都大学などで教鞭を執り、現職。おもな著書に、『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』などがある。
* *
「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
外部リンク