Vol.5 「1打の選択にはドラマがある」
ジョン・ラームが悲願の初メジャー制覇を遂げた全米オープン。最終日が終わった直後に、日本にいる岩田寛プロからLINEのメッセージが入ってきました。
「大ちゃんがルイのキャディだったら、最後2打目どうしてた?」
ルイとは、ルイ・ウーストハイゼンのことで、最終18番ホールの2打目地点の話しのことです。確かにあの状況は僕も見ていて凄く考えさせられました。状況を改めて振り返ると、最終組のルイが18番ホールにきた時点で通算4アンダーの2位。ジョン・ラームは通算6アンダーで先にホールアウトしていて、2打差を追いかける状況です。18番は568ヤードと2オン可能なパー5で、イーグルを取らないといけない展開でした。
ルイは前日にもイーグルを奪っていましたから、相性の良いホールではあります。しかし、ティショットは左のラフに入ってしまい、残りは247ヤード。結果レイアップしてバーディで1打及ばず、だったわけです。
メジャー仕様のラフは深いラフが基本ですが、ルイのボールは上から見れば見える状況で、そこまで悪いラフでは無かったのです。最初、ルイはグリーン右のバンカーに入れて、そこからチップインを狙う作戦をキャディのコリンに提案しました。しかし、キャディのコリンは、レイアップを勧めました。それは、グリーン手前に池があるので、転がして乗せることはできません。ラフからボールを飛ばせても、物理的にスピンが入らないのでグリーンで止めるのは不可能と考えたからです。結果、池の手前に3打目をレイアップして、そこからイーグル狙いを選びました。
僕はあのシチュエーションなら最高の選択だと思いました。もちろん優勝するためには、なるべく確率が高い場所にセカンドショットを運ばないといけません。そのためには、ルイのいうバンカーが一番確率の高い場所だったかもしれません。もしくは、グリーン右手前の数ヤードしかない花道。池を越えるのは実質キャリーで240ヤード必要ですから、あのライでは不可能だったでしょう。もしライが良かったら、わざとグリーンの奥のスタンドに打ち込んで救済を受けて奥からチップインという選択もあったとは思いましたが。実際「バンカーからチップインする確率×セカンドショットをバンカーに入れられる確率」と「フェアウェイにレイアップできる確率×3打目をチップインできる確率」とではどちらが高いのか。
全英オープンで1勝を挙げているルイクラスでも、なかなかメジャーで優勝のチャンスは巡って来ないもの。イチかバチか狙いたくなる気持ちもわかります。ただ、セカンドショットをバンカーに入れることさえ相当難易度が高く、かつリスクのあるショットです。池を避けてバンカーの右に外しますと、3打目は池に向かって落とし所が一点しかない超難易度の高いアプローチが残ってしまいます。実際、ケプカはそこに外して、ギリギリ狙った結果、バンカーを越せずボギーとなってしまいましたから。
いくら優勝以外一緒だとしても、プロにはワールドランキング、FedEx Cupポイントランキング、賞金、色々な物が懸かっています。あの時点で例え18番をパーで終えて単独2位だとジョン・ラームを素直に称えられると思います。しかし、ボギーを打って2位タイやそれ以下ですと例え挑戦した結果だとしても、ミスをした事に自分の選択にものすごく大きな後悔が押し寄せて来るものです。なぜなら、トップ選手ほど普段から絶対にそんなギャンブルゴルフをやらないように癖をつけているからです。結果、レイアップしてバーディを奪って単独2位だったのはよかったと思います。
ルイにレイアップを勧めたコリンは、57歳と超が付くベテランキャディです。これまでアーニー・エルスなどたくさんのビッグプレイヤーを担いできました。いまだにしっかりトレーニングをやっていますし、最終日も僕が早いスタートの松山選手のラウンドリポーターをやっていたら、コースにきてピンポジションをチェックしに来るほど、準備を怠りません。
もちろん、ルイと同じくらい勝ちたかったでしょう。それでもあの場面でしっかりレイアップをアドバイスし、選手もコリンがそこまでいうならしょうがないという二人の信頼感を感じました。素晴らしいサポートだったと思います。
ルイが考えるプランを選択していたら、うまくハマってプレーオフにもつれていたかもしれませんし、3位以下の集団に飲み込まれていたかも知れません。すべては結果論です。同じ選択をしても“スーパーショット”になるのか、“無謀な攻め”になるのか。優勝争いで選択する1打の裏側には、さまざまなドラマがあるのです。これもゴルフの面白さですね!!