自由研究は成功体験を得るチャンス
いまはちょうど夏休みの時期だな。理科の話をしていて思い出すのは、昔もいまも宿題に含まれている自由研究だ。
休みが終わるころにあわてて仕上げた向きも多かろうが、あの課題は理科の勉強の一環としてうまく活用できるものなのだろうか。
「ぜひしっかり取り組んでいただきたいです。自由研究は、成功体験を得るチャンスですから。
どのようなテーマであれ、自分で決めた課題を最後まで仕上げる機会というのは、なかなかないものです。
疑問に思ったことを調べてみれば、何かしら説明が立てられ、自分なりの答えを導けて、理解に到達できるんだということを実感できる。大切なことですよ」
つい親が出しゃばってしまうというのも、自由研究ではよくあるパターンなのだが、どれくらい関わるのが適切なのだろう。
「少なくとも答えを大人の側から指し示してしまうことは、しないほうがいいでしょう。
基本的には、興味関心を共有すること、いっしょに驚いてあげること、調べを進めるにあたって手助けをしてやるといったところにとどめるべき。
いっしょに学ぶ仲間のひとり、というスタンスがちょうどいい距離感では」
自由研究には明確な解答や正解がなさそうなところも、どうにも手応えがなく感じられてしまうのだが……。
「それこそ本当の学びというもののかたち。答えのないものに挑む体験を、早いうちからやっておくべきですね。
むしろ学校の授業や受験でおこなうような、『問1の答えはこれ、問2の答えはこっち』と逐一答え合わせをしていけるような勉強が、学びの土台をつくるための特殊なものだと考えておくくらいでちょうどいいですよ」
答えのないことを探る物理の世界
村山さん自身も、好きな物理の学びを進めているうちに答えのない領域へ入っていき、そのとき初めて学問研究の真のおもしろさに気づき、いっそうのめり込んでいった経験があるとのこと。
「理科に特別な興味を抱くようになったのは中学生あたりのことでした。それからあれも理解したい、これも理解したいと勉強をしていって、大学でも物理を専攻しました。
大学院へ進むころになって、ふと気づいたんです。ああ自分はもう答えのないことを探る場所にいるんだなと。
それまでは、答えを得るためにあれこれ調べたりしていたんですが、いつの段階かで答えがない問題があると勘付いたんですね。
世の中にはわかっていないこと、まだだれも知らないことがある。それを知りたいからみずから研究をするのです。
もちろん研究者になる人というのは世の中全体でみれば圧倒的な少数派ですし、子どもを研究者にしたい親御さんも少ないかもしれません。
ただ、成功体験を経て何らかの対象に興味・関心を強く抱き、探究しているうちに答えのない領域に踏み込んでいくというプロセスの体験は、どんなジャンルに関わっていくにしてもたいへん役に立つものだと思います」
村山斉 1964年3月21日生まれ。物理学者(素粒子物理学)。米国・カリフォルニア大学バークレー校教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者、教授。国際基督教大学高等学校卒業後、東京大学理学部に進学。東北大学の助手を経て米国に渡り、研究活動をおこなう。
* *
「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※村山斉さんのインタビューは、8月12、14、16、19、21日に全5回配信します。今回は第3回でした。
外部リンク