スマホをやめるだけで偏差値が10上がる―。脳科学者で東北大加齢医学研究所長の川島隆太教授が発表した調査研究によると、スマートフォンを1日1時間以上使う児童生徒は使用時間の長さに比例してテストの成績が下がったり、無料通信アプリLINE(ライン)などの通知音で集中力が散漫になったりするという。若い世代で所有率が急速に高まる中、川島教授がスマホが与える子どもの脳や学力への影響について話した。
東北大と仙台市教育委員会は、2010年度から毎年同市内の公立小中高校の児童生徒約7万人を追跡調査している。その結果、スマホを長時間使うほどテスト成績が下がることや、スマホを使わない児童生徒は偏差値が高いといった傾向がみられた。
スマホの使用時間と学力低下の関係については、スマホやタブレットを使いこなしている子どもたちはLINEやゲーム、動画、音楽などアプリを次々に切り替えるため気が散りやすく、集中できる時間が短いことが影響している。
活字を読むためにはある程度の時間集中しないといけないが、一つのアプリを操作するのは30秒程度。このため、今の子どもたちは深い情報処理ができず、教科書や本などの読解力が落ちている。
対策として最も重要なのは脳の働きを活性化すること。それには読書がお薦めだ。仙台市教委との調査結果でも読書習慣のある児童生徒は全体的にテストの成績が高い傾向にあった。読書を1時間以上する習慣がある子どもは勉強しなくても平均点を超える。活字はダメージを受けた脳のリカバーにつながる。
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スマホの使い方も、脳の働きに大きな影響を与える要因の一つだ。道具として使う分はいい。使用時間が1時間未満で抑えることができている子どもたちには何の影響も出ていない。
仙台市の児童生徒のデータでも、1時間未満で抑えられている児童生徒については、主に部活の連絡や外出中にどうしても調べたいことを検索するなどの限定的な使い方にとどめ、使用時間も10~15分程度で済ませていた。
ただ、総務省の調査によれば、高校生の9割が1日1時間以上使用しているのが現状だ。スマホを使いこなせている1割は努力した分だけ脳が成長する。しかし、残りの9割はスマホを使うために時間を作り、機械に使われて情報におぼれる。脳に与える影響の差は計り知れないほど大きくなる。
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全国各地で行っている中学生を対象にした講演会でみられる興味深いエピソードがある。講演会では生徒と討論会を行い、生徒にスマホのデメリットとスマホを使わないといけない理由を天秤(てんびん)に掛け「中学生活でスマホは必要か」と質問する。すると、ほぼ「中学生活にスマホはいらない」という意見になる。
ただ、同じことを保護者とやると、全国どこでも必ず「分かったけれども手放せない」「スマホがないと暮らせない」との結論になる。大人の方が依存が強くなっている証拠だ。
講演会の最後には、保護者に対して「十数年前を思い出してください。スマホの『ス』の字も世の中になかったのに、あなたたちの生活に不便はありましたか」と問題提起する。大人も含めてスマホとどう向き合っていくか真剣に考えていくことが、今後子どもたちをスマホ依存から守るために重要と訴えている。
川島 隆太
(かわしま りゅうた)
1959年千葉県生まれ。東北大大学院医学研究科修了(医学博士)。スウェーデン・カロリンスカ研究所客員研究員などを経て、現職。任天堂DS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修や、「脳を鍛える大人のドリル」シリーズなど著書多数。60歳。
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