オードリーの若林正恭、春日俊彰がMCを務めるトークバラエティ番組『あちこちオードリー』(テレビ東京)に6月30日、星野源が出演した。
ゲストがオードリーのふたりと共に本音トークを繰り広げることで、発言がたびたびネットニュースにも取り上げられるほど注目の番組。タレントや芸人のゲストが多いなか、珍しく星野源という「アーティスト」が出演することもあり、放送前にもより多くの注目を集めていた印象がある。
星野は、自身が年に1回発行しているオフィシャル・イヤーブックの第5弾『YELLOWMAGAZINE 2020-2021』(2021年4月末発売)で若林と対談したばかり。さらに、『オードリーのオールナイトニッポン』(6月19日放送回)には星野の大ファンだと公言する春日の妻・クミさんが登場し、星野の楽曲「Family Song」を夫婦で歌った。
何かと関わりの多いオードリーのふたりに、星野源はどんな「本音」を語ったのか。番組内での星野の発言などを取り上げながら、改めてその魅力を考える。
星野源の嘘のなさ
「『らしい』は俺が握ってる」
『あちこちオードリー』に星野源がゲスト出演したときに言った言葉だ。番組内で「他人に枠にハメられるつらさ」について語っていた。
人は外見や雰囲気ですぐに他人をカテゴライズしたがる。たとえば「陽キャ」「陰キャ」という言葉があるが、仲間と楽しそうに騒いでいれば「陽キャ」、家でひとり暗い部屋でアニメを観ていれば「陰キャ」、人間そんな簡単なものじゃない。そういう意味で言えば、新垣結衣と結婚した一方で、アニメ『中二病でも恋がしたい!』『たまこまーけっと』を観ながらラブソングを作っていた星野源は、何にも当てはまらない「星野源」なのだと思った。
どれだけ人気者になってもラジオではAVやアニメの話で盛り上がり、たびたびファンを置き去りにする。どれだけハッピーソングを書いても、「この世の地獄」を歌詞に入れ込む。この嘘のなさこそが星野源の魅力のひとつなのだと、今回の『あちこちオードリー』で改めてわかった。
「裏表のない人」というよりは、表も裏も隠す気がない。当然俺は星野源の表しか知らないが、音楽、本、テレビ、ラジオ、数々の顔を見ているだけでも、そこにはただただブレることなく星野源が存在している。ただひたすらに、自分の中にあるものをありのまま表現する。彼の言葉を借りるなら、「クソみたいな世の中」「地獄」の中でおもしろいことを創造しようとする姿勢は恐ろしいほど一貫している。その姿にファンは、いや俺は惹かれてしまう。
星野源と『あちこちオードリー』の親和性
「ずっと主軸をやってきた人間というよりかは、主軸じゃないんだなっていうのを自覚している人間で。自分が思っているものを主軸にしていきたいって感覚をずっと持っているので、最初のころはそういうのに気づいてくれる先輩がたまにいて、褒めてくださったりするんですけど、だんだん自分のやってることが主軸になってくるにつれ、なんか普通……なんか『星野源って当たり前にポップな人だよね』って思われてて、違うんだよなぁって思ってて、それがだんだん褒められなくなってくる、当たり前になってるって感じはありますね」
サラッと言っていたが、言葉どおり星野源が「自分の音楽を主軸にした」ことのすごさに改めて身震いした。おそらくほとんどの人は星野源の音楽を聴いて「マニアックだな~」とは思わない。それほど自然に星野源はポップの中にマニアックを両立させている。
大衆が「わかりやすい! ポップだ!」と思って摂取している星野源の音楽の中には数滴、アンダーグラウンドでマニアックなドロドロの汁が混ざっている。毎晩食べている夕食に少量の薬物が混ざっていて、少しずつ中毒になっていくような恐怖と気持ちよさ。そうなってしまうともう、星野源からは逃げられない。心境の変化はあれど、星野源の作る音楽の「根」の部分はいい意味で変わっていない。そのなかで時代が星野源に追いついた、いや星野源が時代を動かしたと言えるのではないだろうか。
そんな星野源が『あちこちオードリー』という番組に出るのは、今となっては必然のようにも思える。2012年にリリースした楽曲「フィルム」の中に「笑顔のようで 色々あるなこの世は」という歌詞があるが、『あちこちオードリー』の番組に恐ろしいほど当てはまるフレーズなのではないだろうか。
普通ならゴミ箱に捨てるしかない、犬も食わない愚痴や苦労話を最高におもしろいコンテンツへと昇華していくこの番組と、「愛」と「糞」を同時に曲に込める星野源はまさに親和性の塊、今回が初めてなのが不思議でしょうがない。そしてそんなふたつがついに出会ってしまった。文字どおり奇跡の回だった。
星野源と「エロ」
そしてもうひとつ、本編とは別の奇跡が起こっていたのにお気づきだろうか。星野源には忘れてはならない最大の武器がある。そう「エロ」である。
『あちこちオードリー』のニューヨーク、小島瑠璃子ゲスト回で、兄弟番組『かちこちオードリー』が爆誕し、SNS上では星野源回との内容の差に「落差が激し過ぎる」「先週のかちこちオードリーはなんだったんだ」といった声が挙がっていたが、勘違いしないでいただきたい。番組の流れ上、ああいった真剣ガチトークになってはいたが、星野源は紛れもなく『かちこちオードリー』側の男であると。どれだけ売れようが、誰と一緒になろうが、TENGA愛を語り、FANZA愛を叫ぶ、星野源のエロと性に対する探究心は常軌を逸している。いや、むしろ星野源こそが「真のかちこちオードリー」と言っても過言ではない。
今回は売れるまでの葛藤や創作をする上での苦悩を語っていたが、もしまた番組ゲストで出演することがあるのなら、ぜひ『かちこちオードリー星野源SP』を放送してほしい。ニューヨークも交えて5人で「自分磨きトーク」をしてほしい。そう強く思った。