広がるユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザイン(UD)は、年齢や障がいの有無などにかかわらず、多くの人にとって使いやすいデザインです。
トイレや文房具など、身近なところで増えていて、文字の書体「フォント」にも採り入れられています。
4月から全ての小中学校でUDフォントを導入している奈良県生駒市を訪ねました。(岩本尚子)
朝日中高生新聞の本文は「明朝体」、前文は「ゴシック体」、教科書の漢字学習は「教科書体」など、フォントにはさまざまな種類があり、フォント会社によっても字形が異なります。
2006年に国連総会で障害者権利条約が採択され、フォントの分野でも、UDの明朝体やゴシック体などを各社が開発してきました。
学校現場でも16年の障害者差別解消法で、子どもたちへの「合理的配慮」が義務づけられ、来年度から小学校で使われる教科書の多くに、UDフォントが採用されています。
フォント会社の「モリサワ」は16年、弱視や読み書きの困難さをもつ子どもに配慮した「UDデジタル教科書体」を発売しました。現在、Windows10のパソコンに入っています。
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奈良県生駒市は4月からすべての小中学校に、モリサワのUDフォントを使える環境を整えました。
市立緑ケ丘中学校では、配布物や電子黒板などの文字が変わり、生徒からは「今日のプリント、見やすい」「学年通信を読むようになった」といった声があがっているそうです。
3年のIさんは「社会のプリントが見やすくなった」といいます。
理科の渡辺拓也先生は電子黒板を使った授業などで、以前からUDフォントを使っていました。
生徒が目の機能の問題を抱えていると、従来の明朝体や教科書体は読みにくい場合があると知ったことがきっかけでした。
「その子のためというだけでなく、みんなが見やすいので、積極的に使っています」
英語の小川飛人先生も、授業中にモニターに表示する文字をUDフォントにしています。
生徒がノートに写す文法のまとめや、音読する教科書の長文は、手書き文字に近い「UD Digikyo Latin」を使っています。
3年のMさんは「読みやすくて、長文もすらすら読める気がします」。
一番後ろの席のKさんは文字もそっくりに、ていねいにノートを取っていました。「このフォントは見やすくて、写しやすいです」
読み書きの困難さ持つ人に配慮
選択できる環境づくりを
耳で聞けばわかるのに読み書きだけが苦手な人は、人口の5%以上いるといわれます。
音と文字を結びつける力が弱い「ディスレクシア」があったり、文字の見え方がゆがんだり反転したり、「はね」が目にささるように感じたりする人もいて、要因や程度はさまざまです。
ディスレクシアは英語圏のほうが多く、日本では英語の学習が始まってから顕在化する例もあります。
ディスレクシアの子どもを支援するNPO法人EDGEの藤堂栄子さんは、通訳として活躍してきましたが、英語を読むのはとても苦手です。
今年英国で、「ハリー・ポッター」シリーズの関連本がディスレクシアに配慮したデザインで発売され、これを見た藤堂さんは「生まれて初めて、英語を読んでもいいなと思った」といいます。
ただ、UDフォントに変えただけで、誰でも何でも読めるようになるというわけではありません。一番読みやすいと感じるフォントは、人によって異なります。
読み書きの困難さをもつ子どもたちを支援する大阪医科大学LDセンターの奥村智人さんは「選択肢の一つとして、本人が選べる状況をつくることが大事」といいます。
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