『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』
【おことわり】
『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』4月の連載で、第5回「子どもの『わかった』を疑え」が配信されていませんでした。今回、第6回「『自分プロジェクト』が記述の力をのばす!」と合わせて配信します。読者の皆様ならびに、関係者の皆様にご迷惑おかけしたことをお詫びいたします。(朝日こども新聞)
子どもの「わかった」を疑え
自学力を養うためのプロセスを、うまくつくってやるのは大人の役目だ。そう清水さんから教わったのだが、そうなると親も意識を変える必要がありそうだ。
忍耐力をもって子に接しなければいけないし、声かけのテクニックもいるだろう。
「そうですね、たとえば『勉強どう? だいじょうぶ? この問題わかった?』などと、つい子には聞いてしまいがちですが、そう聞かれれば子どもはたいてい『だいじょうぶだよ!』と答えます。
これは反射のようなものなので、本当にだいじょうぶなのか、学習内容を理解しているかどうかはほとんどわかりません。
そういうときは、『覚えたこと、お母さんに教えてくれる? 説明してみてくれない?』と尋ねたり、同じ内容だけど角度の違う問題を『じゃあこれも解ける?』と出してみたりしましょう。
大人が子のふるまいを評価するときは、アウトプットを評価すべきなのです。『だいじょうぶだよ』『わかったよ』という言葉は、アウトプットではありませんからね」
「教科横断」に対応するには、中学の勉強を大事にして
ここでひとつ気になるのは、2020年教育・受験改革以降のことだ。
学ぶ目的や内容が変わるとなれば、親が果たすふるまいも変えねばならないのか。また、特別な対策は必要じゃないのだろうか。
「焦る必要はありません。たとえばいま中学受験の勉強をしている家庭は、そのままのやり方を継続して問題ないでしょう。
学ぶことに対して真摯に努力をしてきたのなら、それは制度が変わったってゼロになどなりませんから。
ひとつ心がまえがあるとすれば、中学時代の勉強を、ぜひ大切にしていただきたい。というのは、中学校の勉強が最も網羅的であり、かつ学問の基礎でもあるからです。
教育改革後の大学受験は、教科横断型のものになっていきます。たとえ文系に進むと決めた人でも、数学や理科の基礎的学力がどうしても必要になってきます。
中学校では、だれもが全教科の基礎をまんべんなく学びますね。そこをしっかり勉強しておかないと、大学受験期になってから取り返そうと思っても大変なのです。
もうひとつ、中学・高校時代に、自分で掘り下げたいプロジェクトを持つこともおすすめしたいところです。これは日々の学びを深くすることとともに、教育改革で強化される記述問題対策としても力を発揮しますので。
記述式の問題がこれからぐんと増えていくといいますが、むやみに怖がることはありません。記述式の答え方にはちゃんと型があり、そのフォーマットを覚えてしまえばだれだって解答はつくれます。
問題はむしろ、そのフォーマットに流し込むべき自分の体験、考え、主張があるかどうかです。
試験に臨んでその場で絞り出すわけにもいかないので、これも前もって準備しておく必要があります。そのときに『自分プロジェクト』を活用すればいいのです」
次回で「自分プロジェクト」の進め方、清水さんにしかと教えてもらうぞ。
「自分プロジェクト」が記述の力をのばす!
教育改革によって増えることとなる記述式問題対策として、清水さんは「自分が掘り下げたいプロジェクトを持つ」ことを挙げてくれたぞ。
「宇宙の秘密でも海洋の神秘、明治時代の世の中でも何でもいいのです。教科の枠を飛び越えて、興味のあることを深掘りしていきましょう。
ただしここでも、子どもに丸投げして『とにかく自分で調べなさい』とはしないほうがいいですね。道筋は与えてあげるべきです。
小学校時代の夏休みの自由研究、あれは自由に研究してみなさいという丸投げだから、子どもとしてもちょっとつらくなってしまうのです。
具体的には、探求する内容を子どもが決めたら、英数国理社の5教科からその問題にひもづく考察を進めてみようかと提案すると効果的です。
たとえば人工知能に関心を持ったとしますね。ならばまずは社会科の観点から、人工知能が社会に及ぼす影響を考えてみる。続いて英語で、英語の関連文献を読んでみる。
理科では人工知能がおこなうディープラーニングのしくみを探ってみる。数学からは、知っている知識の範囲で人工知能の課題処理方法を実際に計算してみる。そして国語なら、それら仕入れた知識をもとに字数を決めて論述してみる。
5教科それぞれの視点を用いると、興味を持った対象を複眼的に、うまく掘り下げていくことができるのです。そうか、だからこの5教科が主要な学習分野になっているのかという気づきにもつながりますよ」
親はそうしたガイドラインを示すことで、学びの世界へのよき案内役となれるのだ。
改革の内容をしっかりつかんだ親が子のよき案内役となる
子どもが興味を持ったことに、同じように関心を持つ。そうした姿勢が大事だと、清水さんは強調する。
その伝でいえば、教育改革を経た学びの世界に旅立つ子どもたちのため、親はもっと「これからの教育の世界」を知るのがいいと清水さんは教えてくれた。
「教育改革の内容やその背景を、まずは子を支える親が押さえておくのは重要です。なぜそうした改革がおこなわれることとなったのか。これは時代と社会構造の変化に起因します。
これからはグローバル化がいっそう進み、コミュニケーションツールとしての英語の重要性が増していきます。だから英語学習でも『読む・書く・聞く・話す』の4技能をさらに学ぶこととなったのです。
また、これからは先行きが容易に読めない、不確実な世の中になっていく。そんな世界に入っていく子どもたちは、『生きる力』を養わなければ。そこで思考力・判断力・表現力が必須となり、それらを養える教育に転換しようとしているわけです。
そうしたバックグラウンドがわかれば、子どもにどんな力をつけさせなくてはいけないか、おのずと見えてくる気がします。
10回書いて覚えよう、それでダメなら100回書いて!という暗記テクニックを強いるのは違うんじゃないか。それよりも正しく考えて解を導く方法を身につけてほしい、といった発想になるのではないでしょうか。
変化の背景を知れば、学ぶ子どもの側・学びを促す大人の側の双方とも、納得感を持って勉強を進めていけると思うのです」
なるほどそうした境地へ至るにも、「学びの力」こそ必要になるといえそうだな。
清水章弘 1987年、千葉県生まれ。私立海城中学高校、東京大学教育学部を経て、同大学院(教育学研究科)修了。勉強のやり方を教える塾「プラスティー」を東京と京都で運営。著書は『東大生が知っている 努力を結果に結びつける17のルール』(幻冬舎)など多数。最近は、TBS系「教えてもらう前と後」(火曜よる8時~)に出演し、次回は4月23日(火)。1児のお父さん。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
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