長らく噂が絶えないARMベースのMacBook。その登場は我々が思っているよりも早いかもしれません。そう予測するのは著名アップルアナリスト、TF SecuritiesのMing-Chi Kuo氏です。
同氏の予測によると、むこう12〜18ヵ月の間に、Intel CPUの代わりに自社設計のプロセッサーを搭載する新製品がリリースされると指摘。自社設計のプロセッサーとは、iPhoneやiPad、HomePodにも採用されるAシリーズのチップのこと。
製品が登場するタイミングとなる2021年には、現在の7nmプロセスから5nmプロセスへとさらに微細化が進むとみられており、ARMベースのMacが搭載するのもこの5nmプロセスのAシリーズチップ(A15?)になるのではないか、と思われます。
●IntelからARMへのスイッチ
アップルはプロセッサーの変更を最も上手くこなしている企業といえます。直近では自社も設計に加わってきたPowerPCからIntelへMacのプロセッサーを変更し、これによって性能向上と省電力性を実現。わかりやすく言えば、当時からすれば超薄型デザインを採用したMacBook Airを誕生させることができたのも、Intelへの移行があったからでした。
プロセッサーの変更には、ソフトウェアやアプリの対応が伴います。しかしアップルはIntel移行の際、Mac OS X TigerのままIntelへばっさりとプラットホームを移行しました。細かい互換性の違いは存在していましたが、ソフトウェアとネイティブアプリを共通化しながらも一気に移行することで、この以降を成功させたと言っても良いでしょう。
今回ARM版Macの噂が向こう1年程度で実現する可能性が言及されましたが、今回は完全なARMへの移行というよりは、低価格モデルの優位性向上を狙ったものになるのではないか、と考えられます。つまり、Intelも残しつつ、ARM版Macを登場させるというアイデアです。
●どのパターン?
ARM版Macについてはまだその詳細が明らかになっていません。また、結果的にはより安いモデルに採用されるか、そうしたモデルを新設あるいは復活させる形で、ARM版Macが登場してくるのではないか、と個人的にはイメージしています。
2017年に登場したiPhone Xは、同じ年の13インチMacBook ProのIntel Core i5を搭載するベーシックモデルよりもGeekbenchのプロセッサベンチマークの値が高くなったことが話題になりました。もちろんピークパワーの比較であり、iPhoneが継続的に高負荷の作業をするよう設定されているかと言われれば、そうしたチューニングではないと考えられます。
ただし、ARMだから性能が劣るというイメージを必ずしも持つ必要はない、という点はおさえておきたいポイントです。
もっともシンプルな実現パターンを考えれば、
「macOSが動作するMacのプロセッサがARMベースのApple独自設計チップ」
になるというアイデアです。
もちろんこの場合でも、5nmへと微細化が進み、高い処理性能と優れた消費電力を両立するチップに仕上がることが予想できるため、既存のMacBookやMacBook Airの筐体を使えば、排熱システムを刷新することなく、パフォーマンスとバッテリー持続時間を高めた製品に仕上げることができるでしょう。
●タッチ対応をどうする
さて、ここで考えなければならないのは、過去に何度も発言が繰り返されてきた「MacとiPadの融合はない」という方針です。
これは特に開発者会議の場で、Macプラットホームに対する信任を得るため、と言う文脈が多かったこともあり、覆すことはMac離れを急速に加速させる可能性があります。もっとも、ジョブズ時代なら、過去の自分の発言を平気で覆して最高を目指し、納得させてきたわけですが……。
MacとiPadの融合はない、の意味を最も厳格にとらえれば、macOSとiPadOSの統合や、デバイスラインアップの一体化などをしない、と言う意味です。わかりやすく言えば、タッチパネル対応でタブレットスタイルのMacは登場しない、という意味です。
同時に、1000ドルという分水嶺を作ったことも、MacとiPadの境目を明確にしています。
たとえば11インチMacBook Airは800ドル台からラインアップされており、モバイルMacとしていまだに愛用しているファンが多くいます。しかしこのモデルは廃止され、すべてのMacBookシリーズは1000ドル以上の価格に設定されました。
一方、iPadは最も高いiPad Pro 12.9インチモデルも、スタートの価格が999ドルに設定されており、iPadの全てのラインアップは1000ドル以下で用意されています。マーケティング的な意味で、1000ドルをアップルにおけるコンピューティングの境目としていることがわかります。
しかしながら、ティム・クック体制のアップルは市場との対話によって価値を最大化している企業。教育市場や企業ユースにおいて、Windowsを代替し始めているChromebookに対抗するには、タッチペン対応のラップトップスタイルでより価格が安いモデルを用意する必要があります。
そこで考えられる最適解として、
- 12〜13インチのマルチタッチディスプレイとキーボードを備えるデザイン
- macOSで動作
- ARMベースのAシリーズプロセッサ搭載
- 700ドル前後で販売
という存在が浮かび上がってきます。
●ネーミング「Apple Book」が妥当か
このモデルが投入されることで潤いそうなのが教育市場です。iPadは初等教育でテクノロジーを活用した、アウトプット重視の授業形態には非常に向いた製品です。音声やビデオを用いたレポート作りは、性能が良いカメラを備えるiPadならではの学習活動といえます。
しかし学年が上がっていくにつれ、より長い文章のレポートを書いたり、プログラミングも実際のコードを書くようになるなど、キーボードが前提になっていきます。もちろんiPadもカバーを兼ねるSmartKeyboardが存在していますし使いにくくもないですが、モノの形は重要。より本格的なタイピングに対応するデザインが与えられるべきです。
そこでARMベースながらmacOSを前提とするキーボードを備えたデバイスを登場させることで、Xcodeによるプログラミングに対応し、アップルが考えるiPadからステップアップしていく教育市場への対応にもぴったりです。
ただし、名前がMacのままだと、タッチ対応は前述の融合しないとの宣言を曲げてしまうような気がする……。そこで、かねてから指摘してきた「iBook」という便利な製品名を使うんじゃないか、と考えているのです。
これなら、macOSで動作していても「Mac」ではないので、 「Macがタッチ対応するわけじゃない」と言い張ることができますし、Apple自社開発のチップを使っているiPhone、iPadとの整合性も取れます。
しかし、ブランディングの面で、「iBook」にも疑問が残ります。iPad以来、「i」を冠するプロダクトを登場させていないのです。スマートウォッチもiWatchではなくApple Watchでしたし、Apple PencilもiPencilではなかった。
そう考えると「Apple Book」が、現在のアップルのブランド戦略からして、妥当なのかもしれません。