音楽はお好き?「ぼくたちも作曲家親子――スカルラッティ」
親子で音楽家だった人たちは、それほどめずらしくありません。バッハ、モーツァルト、ヨハン・シュトラウス、ミュージカルを書いたオスカー・ハマースタインといった人たちが有名ですが、なぜかどちらか一方が大作曲家として認められているようです。バッハ以外は、子どものほうが名が知られています。
ところが、それぞれが全く同じくらい有名な例があります。スカルラッティ親子です。父はアレッサンドロ(1660~1725年)。声楽曲を得意とし、イタリアのナポリで活躍しました。息子はドメニコ(1685~1757年)で、器楽曲が多く残っています。おたがいにちがう分野だったからこそ、うまくいったのでしょう。
2人の生きていた時代は、バロック時代の中期から後期にかけてでしたから、まだ教会の力がとても大きく、宗教曲も書いていました。
しかしそれは義務という感じが強く、父はオペラの作曲に向かいました。優秀な歌手を教育する街に住んでいたことも手伝って、「ナポリ派」と呼ばれるオペラ作曲家たちの「祖」と言われるようになります。「ダ・カーポ・アリア」というA・B・Aのくり返しの3部形式の歌や、「イタリア風序曲」という急・緩・急の3部からなる管弦楽曲を発案し、歌手と観客に広く喜ばれました。その歌は現在、「古典イタリア歌曲」という初心者向きの教材として使われています。
一方、息子のドメニコは生涯の半分ほどをポルトガルとスペインで暮らし、スペイン王妃の家庭教師となって、彼女のために555曲ものソナタを書きました。王宮にはチェンバロがあったので、すでにピアノは発明されていましたが、チェンバロ用だと思われます。手の交差や同音連打などさまざまな弾き方が試されており、社交性もあり短いので、独奏会の初めに手ならしとして演奏されることがよくあります。
しかし2人とも、多くの分野にわたって作品を残していますから、オペラとソナタだけでなく、ほかの曲も聞いてみたいものです。そうすれば、ちがいだけでなく似ているところもわかってくると思うのですが。
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青島広志(あおしま・ひろし)。1955年、東京生まれ。東京芸術大学、同大学院修士課程を首席で卒業、修了。「火の鳥」「11ぴきのネコ」などこれまでに200曲あまりを作曲。著書に『クラシックの時間ですよ!』など。東京芸術大学講師、洗足学園音楽大学客員教授。テレビ出演多数。イラストも筆者
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