『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』
教育は子どもの中にあるものを「引き出す」もの
開成中学・高校といえば、歴史や伝統もすごいが、難関の試験をくぐり抜けてきた子どもたちが集まっていることでも知られるな。いわゆる名門校だ。
自分の好きなことを膨らませて将来の志望につなげる手法を前回教えてもらったが、そうしたストーリーに生徒たちがちゃんと乗ってくれるのも、開成という名門校で生徒がいい子ばかりだからなのでは?という疑問も湧いてしまうのだが。
「そこはどうでしょう、特別な子ばかり集めた学校とは、私たちとしては認識していないのですが……。
ただ、生徒がみずから自由に考え、実行することを推奨しているのはたしかですし、教育に関する基本的な考えが教員・生徒・保護者のあいだで共有できているのはいいことだと思っています。
私たちは教育を、なんらかの型にはめることだとは考えていません。そうじゃなくて、引き出すものだと考えます。ちょうど繭玉から絹糸を引っぱり出すようなイメージです。
あまり早く引き出すと切れてしまうし、あまりゆっくりだと終わらない、繭玉から絹糸を引くにはちょうどいい速度というものがあります。
同じように教育は、子どもに内在しているものを、一人ひとりにとってほどよいスピードで引っぱり出すのが基本です」
そうか。教育とは、教える側が一方的に与え、導くものではないのだ。
「子どもの個性に基づいていなければ、教育というのは成り立ちません。能力を引っぱり出すべき速度にしても皆違うわけですし、平均値をとってもなんの役にも立ちませんね。
ではやはり本来なら、きめ細かく少人数教育をするのが必須だということになりますね。その通りだと思います。
ただ、じゃあ1クラス20人ほどにすればいいかといえば、それでも教える立場の人間がまったく少なすぎます。子どもの個性をちゃんと引っぱり出すには、ほぼマンツーマンでの教育が必要です」
先輩の存在が成長を促してくれる
学校教育の現場で、それほどの徹底した少人数教育をするのは、ほとんど不可能ではないか。
「そうなんです。そこをなんとか補うために、開成では部活動を重視しています。
部活動というのは、一人ひとりの生徒の個性や能力の『取り出し授業』のようなものです。開成には約70の部活がありますから、それぞれが好きなところに入ればいい。
個性に合わせて好きなことをきわめてもらうわけですが、そのときには教え手が必要となります。
中高一貫校はその点、有利です。
中学1、2年生は部活動で高校生と一緒になります。そのジャンルで神様のように知識豊富だったり技術に秀でた先輩がいて、自分を導くメンターになってくれるからです。
高校生の先輩たちこそ、後輩ひとりずつの個性に合わせた指導をしてくれる指導者となります。
つまり開成の学内には、指導者が山ほどいる。教える側と教わる側の関係が、部活動を通じて毎年続々とできていきます。
先輩から学んだ中学生は、数年後にこんどは教える側になるわけですが、ここにもいい効果があります。人は教える側に回ると急速に成長します。
なぜかといえば教えるときには、相手にわかるようきちんと知識を整理して、表現しないといけないからです。
教えることによって、論理性が身につくのです。自分も先輩からいろいろ教わってうれしかったから、今度は自分が後輩に教えてやろうということになり、それによってじつは教える側が大いに伸びていきます」
柳沢幸雄 1947年4月14日生まれ。開成中学校・高等学校校長。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の第一人者。開成中高卒業後、東京大学(工学部)、同大学院で学ぶ。民間企業で働いた後、ハーバード大学や東京大学などで環境分野の研究職に就く。2011年から現職。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『親が知っておきたい 学びの本質の教科書 教科別編』(朝日学生新聞社)、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※柳沢幸雄先生のインタビューは、11月1、4、6、8、11、13日に全6回配信します。今回は第3回でした。
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