パフェ評論家・斧屋さんは、なぜカフェ クーポラ・メジロに通うのか

パフェ評論家・斧屋さん×CAFE CUPOLA mejiro

お客さんが「何度も通いたい」と思うお店には、きっと「味」以外の何かがある。

いつから、どんなふうに「おなじみ」になったのか、お客さん・お店側双方の立場からじっくり考えてみると、さまざまな要素が見えてきます。

著名人や食のマニアの方々が普段から足しげく通うお店を紹介していただき、「おなじみ」になった理由を深堀りしていく「お店と常連客のなれそめ話」

今回お話を伺ったのは、10年間で3,000本以上ものパフェを食べ続けているパフェ評論家の斧屋さんです。
日頃から全国各地のさまざまなお店でパフェを楽しんでいる斧屋さんですが、おなじみのお店にもよく通い、店主さんとの交流も大事にされているそう。

インタビューの舞台は、斧屋さんが「新作パフェが出るたびに訪れている」という「CAFE CUPOLA mejiro(カフェ クーポラ・メジロ)」。オーナーの山口英人さんにもご協力いただき、お客さんとお店の距離感や関係性について考えます。

※取材は、新型コロナウイルス感染対策を講じた上で2022年1月上旬に実施しました

斧屋さんと「カフェ クーポラ・メジロ」との出合い

パフェ評論家の斧屋さん(右)と、カフェクーポラ・メジロ 山口さん(左)

パフェ評論家の斧屋さん(右)と、CAFE CUPOLA mejiro 山口さん(左)

―― 斧屋さんが最初に「カフェ クーポラ・メジロ」さんを知ったのはどんなきっかけでしたか? 

斧屋:2017年ごろ、Instagramで見つけたのがきっかけですね。僕はいつもハッシュタグ「#パフェ」などでお店を探すんですが、当時出てきたのがクーポラさんの公式Instagramに掲載されていたパフェの画像でした。その時はチョコレートパフェとミガキイチゴ*1を使ったパフェの画像で「おっ、面白そうだな」と。でも、その時は「食べに行こう」とまでは思わなかった。正直言うと「見た目はまあまあかな」くらいの感想でした(笑)。

斧屋さん

山口:オープンしてすぐ、2017年5月ごろに提供していたパフェ画像ですよね。今は旬のフルーツを使った季節のパフェを1種類に限定し、2週間〜1カ月ほどのサイクルで提供しているんですが、この頃は3種類のパフェでスタートしていました。

チョコレートパフェとティラミスパフェは固定で、あともうひとつは季節のもの。どういう形で提供したらいいのか、その方法を模索していた時期で……。いや、本当に斧屋さんの言う通り、今自分で当時のパフェを見返してもクオリティーは低かったと思います。実際に斧屋さんが初来店されたのも、オープンしてしばらくたってからですもんね。

斧屋:初めてお店に行ったのはいつ頃かなあ。ちょっと待ってくださいね、10年分のパフェを記録しているリストを見返すので……。

あっ、2017年末に季節限定の「洋梨のパフェ」を食べに訪れたのが最初ですね。おいしかったんだけど、それほど強い印象はなく……。そのあとも定期的に通う感じではなかったですね。

―― 斧屋さんはそこからどうしてクーポラさんの常連さんになったのでしょうか。オーナーの山口さんと「おなじみ」になった経緯を覚えていますか?

斧屋:2019年ごろからクーポラさんのパフェのクオリティーがすごく上がったんですよね。グッと洗練された雰囲気になって、パフェに注力されているんだなと印象が変わりました。それから季節のパフェは必ず食べに行くようになりましたね。記録を見ると2019年は9本、2020年は19本、2021年は21本も食べています。

斧屋さんがひんぱんにお店を訪れるようになった頃のツイート

山口さんとお話するようになったのがいつ頃かはっきり覚えていないけど、ある時、ご挨拶させていただいて。今ではお店を訪ねるたびに山口さんとお話してパフェに関する情報交換をするようになりました。また、僕が運営しているパフェのコミュニティー「パフェ大学」のイベント会場としてクーポラさんを使わせていただくこともあります。

山口:斧屋さんはいろいろなお店のパフェを知っているので、たくさんのことを教えてもらっています。ほかのお店に一緒にパフェを食べに行ったこともありますし、2021年夏は、斧屋さん監修で限定メニュー「めくるめくすいかパフェ」も作りましたね。今はコロナ禍でなかなか実現できませんが、またイベントをやりたいね、とも話しているんですよ。

 
 
 
 
 
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斧屋さんが監修した「めくるめくすいかパフェ」

―― 山口さんは以前から斧屋さんのことをご存じだったんですか?

山口:来店されたお客さんに「何を見てご来店されたんですか?」と聞くと、ある時期から「斧屋さんのツイートを見て、パフェを食べに来ました」と答える方が増えたんです。そこで初めて斧屋さんを知りました。確かに平日の昼間、ひとりでパフェを食べに来ているスーツ姿の男性がいるなと(笑)。今は男性ひとりで来られるお客さんはたくさんいますが、当時は珍しかったんですよね。

―― 斧屋さんのお話によると2019年ごろに印象が変わったとか。山口さんはなぜパフェに力を入れるようになったんですか? その頃に何か転機があったんでしょうか。

山口:そもそもの話から順を追ってお話すると、「カフェ クーポラ・メジロ」は、イタリアのバール文化のように「地域の方々に長く親しまれるようなお店に」と開業したカフェなんです。おいしいコーヒーや自家製スコーン、生産者さんから直接仕入れた卵で作るオムレツなどを出していて、ご近所の方もたくさん通ってくださり、自分の理想に近づいてはいたのですが……。売り上げの別軸として何かもうひとつ、遠方からも足を運んでもらえるような商品を作りたかったんです。そこでたどり着いたのが自家製ジェラートを使ったパフェです。

山口さん

僕のバリスタの師匠・根岸清さんは、ジェラートの第一人者として専門書籍を出版されるほど有名な方です。20年ほど前からお世話になり、ジェラートについても教えていただいていました。だからクーポラでパフェを提供するなら、ジェラートを楽しんでいただくコンセプトにしようと。

そういう想いでスタートしたパフェですが、その後、注力しようと思ったのはやっぱり斧屋さんの存在が大きいですね。「そんなに有名な方が来てくださっているんならもっと頑張ろう」とモチベーションが上がりました。

―― お客さんの一人である斧屋さんの存在が刺激になっていたということですね。

山口:2017年に開業して以来、2年間はずっと休みが取れなかったので、パフェを食べに行ったり研究したりする時間もなかったんですが、3年目の2019年頃は心身ともにようやく余裕が出てきた頃で。斧屋さんと出会って、パフェにもっとしっかり取り組んでみようと思えた時期がちょうど重なったんだと思います。

斧屋:パフェに注目が集まり始めてからは、遠方からパフェ目的で訪れるお客さんも増えてきましたよね。

―― パフェを通じて、お二人がとても良い関係を築いていらっしゃるのが伝わってきました。それがお店にとっても良い影響を与えていて素晴らしいですね。

パフェを通じて「カフェ クーポラ・メジロ」の魅力を紐解く

―― 先ほど斧屋さんは「Instagramでパフェの情報収集をされている」と言っていましたが、具体的に写真のどんなところに注目しているんでしょうか。

斧屋:いろいろありますが、一番注目するのは「パフェの層構造」ですね。必ずしも細かく分かれている方が良いわけではないですが、そのお店がどの程度こだわっているかは層構造に表れます。使用しているアイスひとつとっても、自家製か市販品かで全体の印象が変わるんですよね。

例えば、市販品のアイスは、アイス単体で食べることを想定して作られているので、そのままパフェに使ってしまうと甘さのバランスが崩れます。クリームもそう。小さなケーキに使うのであれば甘さが強くてもいいけれど、パフェだと量が多いので、その分調整が必要になる。そこを考えて作られているかどうかが写真を見れば分かるんですよね。

クーポラさんのパフェは、強みである自家製ジェラートはもちろん、バランスの良さが写真に表れていたと思います。

2022年の「新春パフェ」。多彩な層で構成されている

―― 今(取材に伺った1月)、クーポラさんでは2022年最初のパフェということで「新春パフェ」を出されていますよね。こちらは20種類以上の素材を使った複雑な構成ということですが、いつもどのように開発されるんでしょうか?
(編集注:「新春パフェ」はすでに終了しています)

山口:パフェを考える時は甘みや酸味、食感などのバランスを大切にして、最後まで飽きずに食べられることを常に意識しています。うちのお店では複数のグラスを使っているんですが、多いのは縦長のグラスですね。お客さまには上から順番に食べていただくことになるので、コース料理のように、私たちの意図通りに食べ進めてもらえます。

最近、女性スタッフも一緒にパフェを考えてくれるようになって、カクテルグラスを使ったパフェなど幅も広がりましたね。

―― 斧屋さんから見て、クーポラさんのパフェのどういう部分に魅力を感じますか?

斧屋:大きく分けると2つ挙げられますね。

まず1つ目は食用ほおずきや島バナナなど、パフェに使われているフルーツがすごく多彩なこと。ブドウひとつとってもいろいろな種類を幅広く仕入れていて、聞けば日本全国の生産者さんと直接取引していると。フルーツパーラーではなくカフェでそこまで本格的なのは珍しいし、フルーツのチョイスがマニアックですごく良い(笑)。これはクーポラさんのような小さなお店だからこそ入手できる量、という側面もあるんじゃないかなと思いますね。

もうひとつは複雑な層構造ですね。豊かな表現で変化や展開を楽しませてくれる。他のお店のパフェで多いパターンは、主役の素材をトップに置き、グラスの中層で一度離れて下層でまた戻る「A-B-A」構造ですが、クーポラさんのパフェを例えるなら「A-A′-A′′」だと思うんです。

複雑な層構造のパフェ

主役素材を最大限に生かすように、どの層にもジュレやソースなど表現を変えて同じ素材を使っている。コーヒーの使い方が上手なのもバリスタの山口さんならではですし、お酒やハーブなどで香りの要素もふんだんに取り入れているし、アクセントとなる食感にもすごく気を配っているのが分かる。

ジェラート以外にも「パフェを豊かにするための武器」がどんどん増えていて、そのおかげで表現したいことをきちんと落とし込めているのだろうなと感じますね。

―― 斧屋さん大絶賛ですね! それに対して山口さんはどう思われますか?

山口:嬉しいですね(笑)。先ほどフルーツのお話が出ましたが、「うちのお店の規模だからこそ仕入れられる量」というのは確かにその通りで。信頼している生産者さんには細かく指定せず、旬のものを送ってくださるようお任せしているので、どんなフルーツが来るかは後から知ることも多いんです。値段を見て「こんなに高かったんだ!」って驚くこともしょっちゅう(笑)。

同じフルーツでも最初に届いた“走り”と、終わり頃の“なごり”とでは変化も出ますし、前回とは違う品種が届くこともあります。パフェ全体のバランスが微妙に変わるので、その都度調整することもたびたびですね。

新春パフェを黙々と食べる斧屋さん

斧屋:クーポラさんのファンは遠方からわざわざ訪れる人もたくさんいるし、期間中に何度も同じパフェを食べに来る人も多いんですよね。パフェ好きにとっては、そうした小さな違いを見つけるのも楽しみのひとつになっているんじゃないかなと思います。

―― 一度観た後に「より深く理解したい」と、また観たくなる映画みたいですね。

斧屋:映画というより舞台に近いかもしれません。完全な複製物ではないし、日を追うごとにスタッフさんも作り慣れてきて、よりブラッシュアップされていく。常に進化しているからリピートしたくなるんでしょうね。

「カフェ クーポラ・メジロ」には、なぜ常連さんが多いのか?

―― クーポラさんを訪れるお客さんは、どんな方が多いんですか?

山口:基本的に近隣の方がほとんどで、30代以上の方、シニア世代など落ち着いた年代の方が多いですね。カウンター席がメインの小さなお店なので、特に平日はおひとりさまが6〜7割程度を占めます。

カフェクーポラの内装

パフェが注目されるようになってからは、ありがたいことにご近所の方とパフェ目的の方が半々程度になりました。ここ1年ほどで、パフェを召し上がる男性のお客さんも増えています。

最寄り駅から徒歩10分ほどかかる住宅地にあり、せっかく来てくださったのに売り切れでは申し訳ないので、パフェは予約もできるようにしています。

―― 先ほど斧屋さんから「パフェを何度も味わいたくて来る常連さんも多い」というお話がありましたが、山口さんが常連さんとのコミュニケーションについて気を付けていること、工夫されていることはありますか?

山口:それについては苦い経験があって……。昔、僕は積極的にお客さんとコミュニケーションを取ろうと、どんどん話しかけていたんです。「近くにお住まいですか?」って雑談をしたり、「どうですか?」って味の感想を聞いたり。

ある時、クチコミサイトに「クーポラのマスターはいろいろ話しかけてきてウザイ」って書かれていたのに気づいて、すごくショックを受けました。自分では頑張ってやってきたつもりだったけれど、まったくの逆効果だった。

でも、よく考えてみれば、お客さんは話したくて来ている人ばかりじゃないんですよね。ただおいしいコーヒーを飲み、1人の時間を過ごしたいだけ。言葉ありきのコミュニケーションが、必ずしも常連さんを増やすことにはつながらないんだと。

山口さん

そう気づいてからは、話しかける代わりにお店として当たり前のことにしっかり取り組むようにしています。入店されたら必ず挨拶をする、おいしいものを作る、待たせず提供する、清潔感を大事にする。普通のことばかりですけど、お客さんが心地良いと感じてくれればきっとまた来てくれるはず。そう思うようになったら気が楽になりました。

でも、パフェを楽しみに通ってくださるお客さんは、むしろスタッフと作り方や素材についてお話したい方が多いんですね。そんな時は女性スタッフに任せて、僕は調理をしたり、初めていらっしゃったお客さんがいればその方の接客をしたりしています。常連さんとの関係性も大切ですが、初めて来たお客さんに疎外感を持ってほしくないという思いもあるので……。

僕以外の4人のスタッフは全員女性ですが、その想いを理解して、うまく対応してくれているので助かっていますね。

カフェクーポラメジロ

―― なるほど……。斧屋さんもクーポラさんの常連客の一人ではありますが、そうしたお店の意図や、過ごしやすさは感じますか? 

斧屋:僕はいつも一人で黙々とパフェを食べて帰るので、パフェのことしか話せませんが……。

クーポラさんのパフェは、毎回独創的で驚きがあります。食べると、山口さんが素材や組み立て方に対して勉強されているのが伝わってきますね。

もともとはパフェを「売り上げの柱に」と考えておられたわけで、ビジネス面だけを考えるのなら、確実に売れる要素を持つパフェを一定サイクルで回せばいいはず。食材も、イチゴやモモのような映える食材をメインに据えてしまえばいい。

でも山口さんはそれをしない。あえて難しい組み合わせに挑戦するし、“映(ば)えない”素材でも丁寧に調理して構成する。だから、山口さんにとってパフェは、もうビジネスを越えた自己表現の域になっているのかなと思います。

僕にとって、山口さんが作り出すパフェは「おいしいかどうか」の心配はなくて、「次はどんなパフェを仕掛けてくるんだろう」と楽しみでしかない。絶対的な信頼感があるので、内容がまったく分からなくても「新作」と聞けばすぐに食べに行くでしょうね(笑)。クーポラさんにはそういうファンが多いように思います。

CAFE CUPOLA mejiroでは、斧屋さんの著書も販売

斧屋さんの著書『パフェが一番エラい。』の中にもCAFE CUPOLA mejiroは登場

山口:売上の軸にと始めたパフェですが、今は確かに「自己表現」がしっくり来ます。研究や勉強をしていくとどんどん楽しくなってきたんですよね。毎回新作を考えるのは大変ですけど、新しい発想やトレンドを取り入れて過去の自分を超えるパフェを作り続けたいと思っています。

今はお客さんに「次はどんなパフェを考えているんですか」と聞かれることも増えました。がっかりさせたくないのでプレッシャーや緊張感は常にありますが、期待してくれていると思うと励みにもなりますね。

―― 信頼関係がベースにあるけれど、緊張感もある。クーポラさんとお客さんの関係って、毎回パフェで勝負をしているようで不思議な関係ですね。

斧屋:勝負っていっても勝ち負けはないんですよ。勝ち負けの発想を飲食店に取り入れると、コスパやランキングにとらわれてしまう。そうじゃなくて、おいしければみんなが勝ちなんです。

いつ行ってもおいしいものを楽しく食べられる。お店とお客さん双方にそんな信頼関係ができていて、居心地よく過ごせることが一番大切なんじゃないかなと僕は思います。

【お話を伺った人】

パフェ評論家・斧屋さん

パフェ評論家・斧屋さん

東京大学文学部卒業、日本で唯一のパフェ評論家。2011年頃よりパフェに目覚め、年間400本以上のパフェを食べ歩く。パフェをエンターテインメントと捉え、その魅力を多くの人に伝えるため、雑誌やラジオ、トークイベント、TVなどで活躍するほか、講義&ゼミ形式でパフェをディープに追求する「パフェ大学」を主宰。近著に『パフェが一番エラい。』(ホーム社)。

Twitter:斧屋(おのや) | Twitter

CAFE CUPOLA mejiroオーナー・山口英人さん

2001年に単身イタリアに渡り、本場イタリアのBAR(バール)にてバリスタとして修業。
帰国後はカフェやレストランの現場に携わりソムリエの資格を取得。2016年まで、全国のカフェなどへのバリスタセミナー講師を務める。2017年に独立し、CAFE CUPOLA mejiroを開業。
日本バリスタ協会(JBA)の認定委員。エコール辻東京、宇都宮国際テクニカル等にてバリスタ講座も担当する。

【取材先紹介】

CAFE CUPOLA mejiro(カフェ クーポラ・メジロ)

CAFE CUPOLA mejiro(カフェ クーポラ・メジロ)
東京都新宿区下落合3-21-7 目白通りCHビル1F
電話:03-6884-0860
http://cafe-cupola.com/
Instagram:@cafe_cupola_mejiro
Facebook:カフェ クーポラ・メジロ

取材・文/田窪綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。

撮影/関口佳代

編集:はてな編集部

*1:宮城県山元町で栽培された、上質な複数品種のイチゴの統一ブランドのこと。