FC東京選手会が5月15日、東京都立小児総合医療センターを「オンライン訪問」した。
森重真人、永井謙佑、バングーナガンデ佳史扶、そして石川直宏クラブコミュニケーターの4人が、小学5年生の「りょうくん」と交流した。特に前のめりだったのが、森重だ。
カメラの前で激しく体を動かし、室内トレーニングを再現する張り切りようだった。
気にかけていた少年との再会
森重がりょうくんに会うのは、これで2度目だった。
昨年10月に選手会が同病院を訪れた際にも、少年は病室にいた。
当時は入院したばかりで不安も多かったはずだったが、あまり話す時間がなく、心残りになっていたのだという。
🔵選手会小児病院訪問🔴
— FC東京【公式】🔜7.4 sat ReSTART 柏戦(A) #STAYWITHTOKYO (@fctokyoofficial) October 16, 2019
入院している子どもたち約300人とふれあい、プレゼントを渡したり、サインや記念写真を撮ったりさせて頂きました🤝☺️
子どもたちとはもちろん、保護者の方や看護師さんとも写真撮影をさせて頂きました😊✨#fctokyo #tokyo https://t.co/r2kMWwVr2X pic.twitter.com/kYhNWcOwnK
▲前回訪問時の様子
モニター越しに再会した少年に、森重はこう語りかけた。
「ボールを蹴ることはできないけれど、今できる準備を精一杯やることを心がけ、この環境でどうしたら飽きずに毎日トレーニングできるかを考えている。だからサッカーができなくても楽しくやっているよ」
照れながら笑顔を浮かべる少年を見て、森重も微笑んだ。
「直接会えなかったことは残念ですが、今日はいろいろなことを話せてよかった」
どこか、ホッとした様子だった。
社会貢献という使命
FC東京は社会・地域貢献に力を入れている。
昨年3回実施した「多摩少年院の少年たちの社会復帰サポート活動」は、Jリーグが優れた社会貢献を表彰する「シャレン!アウォーズ」でソーシャルチャレンジャー賞に輝いた。担当者の前野陽生さんは「クラブが掲げる理念4つのすべてに『地域』の文言が入っている。地域を大切にするクラブの気風があり、伝統になっている」と言う。
「多摩少年院の少年たちにも、今回のりょうくんにも、ひとりに向き合うために多くの時間と人員を割いている。社会連携活動は使命感を持ってやっていかなければならない」
社会貢献活動は基本的にクラブ側が企画して選手に呼びかけるが、選手会側からの提案で行われることもある。今回のオンライン訪問は、後者だった。
緊急事態宣言で全てが止まってしまう中、選手たちが自分たちにできることはないだろうかと提案したものだという。
地域貢献への使命感が、選手側にも深く根付いている証といえる。
「サッカー選手」にできることとは
自粛期間中、森重は何度も自問したという。
「ボールを蹴らないプレーヤーとはなんなのか、サッカーをとったら何が残るのか」
プロスポーツ選手が病院を慰問すること自体は、特に珍しいことではない。病室で何か特別なことができるわけでもない。
森重は自問を重ねる。
病と戦っている患者に「がんばってね」と励ますのもためらわれる。かける言葉なんてあるのだろうか。
「僕らに病気を治す力なんてない。でも会えば、この人は森重というサッカー選手なのだと知ってもらえる。そしていつかTVで、この前来てくれた選手だ、すごいなと感じてもらえるのかもしれない。それで何か得られるものがあるのなら『ああ、行ってよかったな』と思います」
誰かの、ちょっとした希望になれるかもしれない。
健康の象徴とも言うべきプロアスリートは、人が辛いときこそ、光を照らす存在となることができる。いや、そうあるべきだという宿命を背負っているとさえ、言える。
森重はその期待に謙虚な姿勢で応えようとしている。
今季は全日程を消化せずに終わる可能性があり、降格もない。イレギュラーなシーズンだからこそ、人々の心を潤すことができるか、内容が問われる戦いとなるだろう。
「スポーツは嘘偽りがない世界。みんなが努力をした分だけのパワーは、見ている側にも伝わるんじゃないかと思います」
サッカー選手に何ができるのか。
再開後のJリーグでどう戦うか。
笑顔の少年が映るモニター越しに森重が見つめていたのは、根源的な自問自答の先にあった、自分なりの答えだったはずだ。
【後藤勝のFC東京「青赤援筆」】