町民と行政の対話が町を変える、町長も巻き込んだオープンチャット活用術

近所のお店や施設、天気、災害、観光情報など日々さまざまな情報交換が行われている地域をテーマにしたオープンチャット。
人口約4,700人の山形県・西川町では、町民中心に1,600人以上(2024.1月時点)が参加するオープンチャット『すっだい実現する町・西川』が新しいコミュニケーションの場となっています。役場を巻き込んだオープンチャットの活用術について管理者・木村さんと、西川町の菅野町長へのスペシャルインタビューをお届けします。

 

 

――まず、テーマとして扱われている山形県・西川町の魅力を教えてください。

菅野町長:西川町の魅力はたくさんありますが、まず自然が豊かです。百名山の月山があったり、ダムがあってそこでカヌーもできます。他ではなかなかできない滝行など、自然のアクティビティは来ていただいてこそ伝わる魅力だと思います。あとは、名水百選にも選ばれた月山自然水。水が美味しいので地ビールや地ワインなどの地酒もあります。

(日本一の噴射高を誇る「月山湖大噴水」。木々の緑を背景に大迫力な観光スポット)

――オープンチャットを開設し管理されているのは(福島学院大学 教授の)木村先生とのことですが、菅野町長との関係性を教えてください。

菅野町長:私が財務省時代、福島の鉄道会社を支援する地方創生に関わった際、木村先生と出会いました。最初は仕事でしたが、その後は仕事にかかわらず、地方創生のためにという同じベクトルでご一緒しています。

――前職からのお付き合いなんですね。そこからどうしてオープンチャット開設に至ったのでしょうか?

木村先生:元々オープンチャットは知っていて、菅野町長が西川町長選挙に出るというお話を聞き、応援したいという気持ちから2022年の3月に開設しました。最初は、菅野町長がつくった「ちいきん会」(地域金融機関や官公庁の有志が集まり地域活性化を目指しているコミュニティ)のメンバーが参加していて、菅野町長と西川町を応援する町外の仲間たちが集まっている感じでしたね。イベントなどその場にいた人たちにどんどん声を掛けて、50~60人ぐらいからスタートして、選挙が終わったころには500人くらいの参加者になっていたと思います。

菅野町長:それで、今は木村先生が管理しているオープンチャットを、町民や関係人口の方とのコミュニケーションの場として使わせていただいています。

 

町民の5人に1人が参加、双方向なコミュニケーション

――現在1,400人以上の方が参加されていますが、どういった投稿が多いのでしょうか?

木村先生:町役場の方や第三セクターみたいな、公的な立場の方々が自発的に情報発信していただくことが増えてきたかなと思います。役場の方が情報発信すると、町の方からレスポンスをもらえたり、応援してくれる人が増えてきたりして、また次の投稿のモチベーションにつながっているんだろうなと思って見ています。

菅野町長:確かにそれはありますね。町側からすると自分たちの政策を伝えるという目的がありますが、ホームページとかは一方通行なんですよね。でもオープンチャットは双方向のコミュニケーションなので、自分たちの政策で何をやろうとしているかっていうのが、伝わりやすい。新しい政策を続けて打つ行政としてはとてもありがたいです。

――町民向けの場かと思いますが、町の方はどのくらい参加してくださっているんでしょうか?

菅野町長:たぶん1,000弱入っていると思います。西川町の人口の20%くらいです。5人に1人なんてすごいですよね。口コミでどんどん広がったんだと思います。役場職員も参加していないと仕事ができないので、おそらく全員入っています。

――5人に1人はすごいですね…!どうやって参加者を増やしていかれたんでしょうか?

木村先生:一番は、菅野町長がどこに行っても、『オープンチャットありますから入ってください』と推してくださったことだと思います。

菅野町長:あと、この名刺からも(QRコードを読み込んで)オープンチャットに入れるようになっています。広報紙とかでも必ずオープンチャットを載せてますね。

 

対話会の参加者をオープンチャットで募集し行政を効率化

――オープンチャットの魅力に感じる点があれば教えてください。

菅野町長:行政の効率化につながっていると思います。例えば、町民との対話会のイベントをやろうとなると、回覧板でお知らせして、チラシを作って、申し込みを電話で受け付けてという作業が発生します。でもオープンチャットに参加している町民や関係人口の方は、町づくりに関わりたいっていう気持ちがあるので、オープンチャットでお知らせするとそれだけで一定数の方が参加してくれます。 


(役場の方が対話会の参加者をオープンチャットで募集)

菅野町長:予算を作るときに“西川予算六原則”を掲げていて、その中にニーズベースというのがあります。ニーズって対話しないと分からないじゃないですか。なので対話会はテーマごとにやっているですが、オープンチャットって町民とすぐ対話できるのでとても効率的なんです。

菅野町長:それから、町民の方を巻き込むのにも便利なツールですね。ポスターやチラシで、AIに方言を教える先生を募集していたんですけど、応募者が足りなかったんです。そこで当日、予定時刻の3時間前にオープンチャットで『応募者が足りません、ご協力お願いします』って投稿をしました。役場も町民の方に困っていることを言ってもいいんじゃないかって、投稿してもらったんですけど、ちゃんと集まって助かりましたね。

――とても上手く活用いただいていますが、開設後に困ったことなどはありましたか?

木村先生:最初は近い方たちが参加していたので一定の秩序がありましたが、人数が一気に増えてからは個人的な想いなど一方的な投稿がされることもありました。でも、管理者が3~4人いてしっかり対応しているので1日くらいで収まりますね。

 

町民と役場をつなぎ、距離を近づける存在に

――オープンチャットを開設して印象的だったエピソードはありますか?

木村先生:ある日、町民の方から『道路に倒木があって、電柱に引っ掛かると危険です』っていう投稿があって、それを見て建設水道課の方がすぐ対応してくれたんですよね。明らかに勤務時間外だったんですけど、人の命にも関わる話だったので。普通だったら、勤務時間外に役場に電話をかけても誰も対応できないと思うんですけど、オープンチャットのおかげで直接担当者が見ることができたのかなと思います。

ただその後、『オープンチャットがあると勤務時間外も仕事に拘束されて、職員が大変なんじゃないか』という投稿がありました。それに対して、町長や職員の方に直接回答していただいて、気遣いへのお礼とオープンチャットの目的やルール、そのうえで我々も上手く利用していきますみたいなことを書いてくれたんですよね。

菅野町長:こういう倒木の連絡とかって、本当だったらだいたい区長や町内会長から来るんですけど、ワンクッション入るので、その人がいなかったら対応が遅れてしまいます。オープンチャットだと一個人からいつでも受けられるので、行政で本当に使える仕組みなんですよね。

――スピード感もあって、写真で状況を伝えれるのもいいですよね。ちなみに役場の方も含めて管理や運用ルールなどは決められているのでしょうか?

木村先生:特にないですよね。

菅野町長:ないですね。私はなるべく22時半以降はやめようかなと思ってるんですけど(笑)でも普段から、役場では電話ベースでやってる話ですよね。やっぱり県や国と違って、こういう地域は夜中でも携帯とかに連絡がくるので。

 ――役場の方たちも業務の一環としてオープンチャットを見ていただいているということですね。他に開設後、良い変化などはありましたか?

菅野町長:町の方は相当見てくれていて、さっきもトイレで掃除の方に『今度、登山するのね』って声を掛けてもらいました(笑)今まで知られていなかったことも、情報発信できるようになって町が一生懸命やってるのをご理解いただけるようになったと思います。あとは、オープンチャットに入ってもらった地域おこし協力隊インターン生を、町民の方たちがすごく気にしてくださることですかね。

木村先生:外から入ってきた協力隊の方が、こんなに周りから応援してもらえる自治体ってたぶんないんじゃないですかね。例えば、『スキーやりたいので道具借りられないですか』とか、『除雪やってみたら、こんな楽しいんですね』とか、やりたいことや意見を地元の方とちゃんと共有してるのってほとんど見ないですよね。オープンチャットは町外からきた方たちが馴染むときに、ものすごく有効だなと思います。


(協力隊の方たちが活動の様子などを積極的に投稿)

 

オープンチャットで人のやりたいこと、得意なことを本気で知っていく

――これからオープンチャットを開設してくださる自治体が、長く続けていくコツがあれば教えてください。

菅野町長:オープンチャットを続けていくためには、町民の声を聞き、要望に応えるんだという本気の覚悟が必要だと思います。オープンチャットのメリット、デメリットは、行政と首長の力量次第です。私の公約は、“(町民や職員の)やりたいことを実現する”なんですが、そのために人がやりたいこと、何が得意なのかを知ろうと本気で思っています。

木村先生:『とにかくこの町で何が得意な人がいて、何ができるのかを全部知りたい。それを全部活躍させます』ってずっと言ってますよね。そういった意味では、西川町もまだ全然途中ってことですよね。

菅野町長:はい。でもだんだん町民でもこんな人がいるんだって結構つながっています。こんな小さな町なのに、今年度だけで起業数が8件ありました。若い人が仕事を辞めて、この町のためにやるんだっていう。そういう雰囲気づくりにオープンチャットも役立っていると思います。

――最後に、今後オープンチャットをどのようなコミュニティにしていきたいか教えてください。

菅野町長:まず町民の方の困ってることを解決できるツールになればいいなと思います。そして、政策で関係人口を5万人つくりますと言っているので、町外の方にも参加してもらって西川町がこんなことをやっているんだ、頑張ってるんだというのを見てもらいたいです。そうすることで、関わりしろが見つかりやすいと思うんです。実際、『こういうことで困ってるんだったら、私はこんなことができます』というご提案がオープンチャットやホームページを見た民間会社からたくさん来ています。町民の方だけでなく、町に来てくれた人にもぜひ参加してもらいたいですね。

(道の駅で見つけた、菅野町長とイメージキャラクター・ガッさんデザインの月山ビール。こちらは300本限定でしたが、西川町に行った際はぜひ美味しい地酒をチェックしてみてください)

■スペシャルインタビューまとめ

・菅野町長が感じるオープンチャットの魅力は『行政の効率化』『町民のニーズを聞く対話の場としての活用』ができること

 

・オープンチャットを続けるコツは、町民の声を聞き、要望に応えるという本気の覚悟

 

・オープンチャットは、①行政と町民の距離を近づける ②新たに町に来た方を応援する雰囲気づくり ③町での起業や民間会社からの問い合わせ にもつながっている

 

町民の困りごとを解決する場、"関わりしろ"を見つけてもらうような場にしていきたい

※内容は2023年9月のインタビュー当時のものです。