旅立ちの季節に
節分、立春――外はまだまだ寒いですが、春はすぐそこ。卒業、進学ももうまもなくです。4月からはどんな生活が待っているでしょうか。期待と不安がふくらむ季節におすすめしたい3冊を紹介します。
『卒業ホームラン』は、小学生の男の子が日々味わう切ない気持ちを描いた短編集です。表題の作品は、1年生のときから野球に取り組んできた智という少年と、野球チームの監督を務める、智の父親の物語。まじめに練習しているのにレギュラーになれない不器用な智の姿を、父親である徹夫の目線で描いています。
智は小学校卒業とともにチームを卒業することになっています。迎えた最後の試合。徹夫は、父親としての思いと、監督としての思いのはざまで苦悩していました。結局は心を鬼にして、智をベンチ入りメンバーから外します。むくわれない努力に意味はあるのか? その答えを見つけようとしてもがく親子の、ほろ苦いけれど心温まる物語です。
『独立記念日』は、若い女性たちが主人公の短編集です。
一生懸命生きているのに、どうしてうまくいかないの? そんな心のもやもやを抱えた女性たちが、それぞれのストーリーを語ります。
表題作の中に、印象的な言葉があります。「『自由になる』っていうことは、結局『いかに独立するか』ってことなんです。ややこしい、いろんな悩みや苦しみから」
家族、仕事、自分の価値観――人間はいろんなものに束縛されて生きています。いえ、実際は束縛なんてされていないのに、「束縛されている」という思いこみに束縛されているのかもしれません。その思いから解き放たれて前を向いたとき、それまで見えなかった未来が見えてきます。
最後の一冊『翼をひろげて』は、ある男性の旅立ちの物語。飼い鳥たちがうつ病にかかったので、それぞれの生まれ故郷でカゴから出してやるのですが、最後に自分がうつ病にかかってしまいます。男性は仕事も家も友達も手放して、ひとりで小さな舟に乗り、自由を求めて旅立ちます。
自由ってなんだろう。生きるってなんだろう。明確な答えは出ないけれど、なぜかほっと気持ちが楽になる、そんな作品です。
* *
【評者】翻訳家 西田佳子(にしだ・よしこ) 名古屋市出身。東京外国語大学英米語学科卒業。訳書に『赤毛のアン』『わたしはマララ』『すごいね! みんなの通学路』などがある。法政大学と武蔵野大学で英語の非常勤講師を務める。
外部リンク