仕事を辞めて老後30年生きるとしたら、夫婦で年金以外に約2千万円が必要――。金融庁の報告書から老後への不安が広がり、参院選の争点として若い世代からも注目が集まっています。
「老後までにお金をためないといけない?」「年金はどうなる?」と気になった人もいるのではないでしょうか。年金制度や将来のお金について考えます。(畑山敦子)
年金で支え合いながら、備えを
金融庁の有識者会議の作業部会がまとめ、6月に発表した報告書は、退職した高齢夫婦の生活費について、年金収入だけでは足りない額を約2千万円と試算し、老後までにその分の資産を準備することなどを呼びかけています。
しかし、自民党は「国民の誤解を招く」などとして、麻生太郎金融相が報告書の受け取りを拒否しました。野党はこうした対応を批判しています。
お金のつきあい方などの講座を開く「キッズ・マネー・ステーション」代表で、ファイナンシャルプランナーの八木陽子さんは「年金だけだと老後の生活が不十分ということは、以前から明らかだったこと。
報告書の目的は老後に備えようと伝えることでしたが、逆に不安が広がってしまいました」と言います。そもそも、公的年金はどんな制度なのでしょうか。
年をとったり、病気やけがで障がいが残ったりした時などには、現金を受け取ることができ、その費用は保険料や税金などでまかなわれています。20歳以上の人は国民年金の保険料を払う義務があります。
少子高齢化が進み、年金を受け取る高齢者が増える一方、給料など収入があって保険料を払う人は減っています。年金制度を維持するため、2004年の制度改革では、税金の投入を増やしました。
同時に、人口の減少など社会情勢に合わせて、受け取る年金の水準を抑えるなど調整し、保険料の負担が増えないようにバランスをとる仕組みができました。
今回の問題で「年金制度は『100年安心』だったはず」との疑問が聞かれます。これについて、東北公益文科大の阿部公一教授(年金教育)は「100年先まで財政の均衡(バランス)を保って、年金制度が続くよう見据えている点を表しています。
皆さんが高齢になっても制度は維持されますが、年金だけで100歳まで十分安心、ということではありません」。阿部さんや八木さんは「『若い世代は損をする』など、年金不信が広がらないでほしい」と口をそろえます。
年金制度は、保険料でその時のお年寄りや年金が必要な人を支える仕組みです。保険料を払わないと、万が一、事故などで障がいが残った時に年金が受け取れなくなることもあります。八木さんは「自分がけがなどで働けなくなった時の保障でもあります。
損得勘定ではなく、社会で支え合う視点を忘れないでほしいです」。20歳からの国民年金の保険料支払い義務を知るとともに、大学などで学ぶ学生は、経済的に余裕がなければ一定の間、支払いが猶予される「学生納付特例制度」も活用してほしいと言います。
この問題をきっかけに、将来のお金について考えることもできそうです。八木さんは「中高生にとって時間は十分あるので、お金の使い方、ため方に加えて、『増やし方』にもアンテナをはってほしい」と言います。「少しずつお金を積み立てる、金融商品についてメリット・デメリットを知って選ぶなど、落ち着いて備えることが大事です」
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