教育現場の「当たり前」を疑ってみる
不思議なのは、他にはない改革を続々と打ち出す麹町中学校・工藤勇一校長の頭の中だ。なぜかくもたくさんアイデアが生まれ、それを実行するノウハウを思いつくのか。
「かつて教員として教壇に立っていたころから、教育の現場で起こる問題に、ひとつずつ解答を探し続けてきました。
どうしたら教育を本当に変えてそれを日本中に広められるか、ストーリーをずっと考えてきたのです。
自分なりに道筋が見つかったのは、10年くらい前でしょうか。それを現在、実践しているところです。
私が教員生活を始めたのは山形県でのこと。5年間勤めたのち、東京へ移りました。地域による違いを実感できたのも大きかったですよ。山形では問題なかったことが東京ではダメとされることも多かったので。
『置き勉』という概念は、東京へ来て初めて知りました。教科書をはじめ勉強道具を学校に置いていってはいけないという決まりごとですね。なぜダメなのか、まったく理解ができませんでした。
倒れる子が頻出しているのに、朝礼を立ったままやることも疑問でした。倒れるのがわかっているなら座らせればいいじゃないですか。これも結局、目的がすり替わってしまっている。
忍耐させることが教育ということになってしまっているのです。
変えたいところはたくさん見えてくるけれど、一教員ではすぐにものごとを変えられない。まずは子どもたち、保護者、教員仲間からの信頼を積み重ねるしかありませんでした。
校長になろうと決めたのは38歳のころでした。
一国一城の主になりたいというのではなく、日本中の教育を変える第一歩としての実践ができると思ったからです。
校長というのは、教育を変えるには最高の立場なんですよ。プレイングマネジャーだし、子どもや保護者にも直接やりとりできる。
単独でもグループでもいろんな研究ができるし、学校にどんな人でも集うことができます。そこに集う人間をみな当事者に変えていけばいいのですから」
子どもが生まれたときの喜びを親は忘れないで
かねて抱いてきた理想が、こうして一つひとつ具現化しているわけだ。
学校は変わり得るということを示してくれた工藤校長から、親へのアドバイスがあるとしたらどんなことだろうか。
「子どもが生まれたときの喜び、あの幸せな気持ちを忘れないでいましょうと改めて言いたいですね。
他の子と比べたり、または自分自身ができなかったことをわが子に投影して託したりするために、育ててきたわけではありませんよね。
子どもにみずから成長する力を身につけさせたいなら、親も初心に立ち返るよう努めたいところです」
工藤勇一 1960年、山形県鶴岡市生まれ。数学教諭。千代田区立麹町中学校長。東京理科大学理学部応用数学科を卒業後、山形県の公立中学校で教える。その後、東京都の公立中学校でも教鞭を執り、東京都教育委員会、目黒区教育委員会を経て、新宿区教育委員会教育指導課長などを務める。2014年から千代田区立麹町中学校長に就任、数々の改革をおこなう。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※工藤勇一さんのインタビューは、9月2、4、6、9、11日に全5回配信します。今回は第5回でした。
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