基礎→応用の流れをあえてくずす
現実世界でリアルに起きていることを題材に、英語の授業を進めていくのが高橋一也先生のやり方だと紹介した。
が、そうしたやり方には反発も伴いそうだ。
いきなり応用問題を生徒に押し付けるのはよくない、基礎的な学力を網羅的に押さえてからでないと、浮ついた知識しか習得できないではないか、などと。
「そうした考えも根強いとは思います。学校ではまずはとにかく基礎をしっかり修めましょうという発想ですね。
でも、考えてみれば勉強は『基礎=つまらない反復練習』→『応用=創造力を駆使した実践』という道筋をたどらねばならないというのは、あまり根拠がないのではないか。
そうした順序を守っていては、基礎ができたあとでいざ創造力を発揮して応用をしようと思っても、そのやり方すらわからない。
応用の方法を学校でまったく学んでいないようでは、そうなってしまうのが必然ですよね。
私は日本の学校をもっと、子どもの創造力がちゃんと重視される場にしていきたいのです」
先生はファシリテーター&コーチであるべし
教える側がしっかりと学び、もっと体制を整えるべきなのだ。
そうすれば学校は、浮世離れした基礎だけを教える場から脱却できるはずと、高橋先生は言うぞ。
「そうです、アクティブラーニングを機能させていくには、先生の側の努力や能力がぜひとも必要です。
教えるべき知識をぎゅっと凝縮して伝えるティーチングの力を、まずは研ぎ澄ませる。
そのうえで知を『理解する』段階へ進めるための授業内容をデザインしてプロデュースしなければいけない。
生徒たちが自主的に学びを進めていけるよう、うまく導くファシリテーター(※)の役も担わなければいけませんし、授業で生徒たちが進めた思考をフィードバックしてあげるコーチの役割も重要です」
そうか、つまりこれからは、先生がひとりで何役もこなさなければいけないのだ。
たしかにそこまでできなければ、AIによって配信される画像を見せておいたほうが、能率も効率もいいということになってしまいかねないな。
「アクティブラーニングにしっかり取り組むといいのは、先生も大いに成長できるからです。
これからの先生という存在は、相対的にものを知っている人というだけにとどまっていては務まりません。
『学びの共同体』とでもいうべき場をつくり上げ、そこに生徒たちを楽しく参入させて、同時に自分もその場に飛び込んでいく姿勢が求められるんじゃないでしょうか」
教師という職業のイメージがずいぶん変わってしまいそうだ。
けれど、高橋先生が示すこれからの教師像のほうが、やりがいも感じられて楽しそうにも思えるじゃないか。
「もちろんここで使った先生という言葉を、親と置き換えることも可能ですね。ぜひ一考していただければ」
※ファシリテーター:グループ学習などの進行役。あくまで中立的な立場から活動を支援し、自ら意見を述べたり意思決定に加わったりすることはない。客観的な立場から適切なサポートを行うことで、参加者に主体性を持たせることができるとされる。
高橋一也 1980年1月1日、秋田県生まれ。英語教諭。工学院大学附属中学の教頭。慶應義塾大学、同大学院で英文学を研究した後、アメリカに留学。ジョージア大学で、最も効果的な教育を設計・開発する方法論である「インストラクショナル・デザイン」を研究。帰国後、2015年から工学院大学附属中学・高校で教鞭をとる。2016年、教育界のノーベル賞といわれるグローバル・ティーチャー賞のトップ10に日本人で初めてノミネートされる。現在、オランダ・ユトレヒト大学大学院にて発達認知心理学の研究に取り組む。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※高橋一也先生のインタビューは、7月1、3、5、8、10日に全5回配信します。今回は第4回でした。
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