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第334回 2017年9月4日

列車よ走れ、意地をのせて 豪華列車を作る職人たち



“予感”を共有する

7月に運行を開始した豪華列車「THE ROYAL EXPRESS」。列車デザインのカリスマ・水戸岡鋭治(70)が、新たに挑んだプロジェクトだ。横浜から伊豆を走る、全国最大級の8両編成という豪華列車。これまでにない「夢の列車」を作るには、どうすればいいか。プロジェクトを成功させるためには、職人たちの気持ちを最大限に奮い立たせなくてはならなかった。水戸岡は、職人たちを一斉に集め、これまでにない「夢の列車」の構想を熱く語った。水戸岡は言う。「面倒なことをやれっていうのはね、それは一番簡単なことだけど、そんなことやってくれるわけないですよね。“予感の共有”っていいますか、みんなが何となくこの仕事やると楽しくなりそうとか、おもしろくなりそうとか、成功しそうだという感じね。その“予感の共有”ができたときは、プロジェクトが成功する可能性が高いですね」

写真豪華列車「THE ROYAL EXPRESS」
写真数々の名列車をデザインしてきた、水戸岡鋭治
写真「伊豆に元気を取り戻したい」と、これまでにないデザインを作り上げる


良(い)い加減

今回の車内の最大の目玉が、3号車。1両をまるごと貸し切り、結婚式や展覧会など、まざまなイベントを開くことができる空間だ。その3号車に必要とされたのは、イベントに合わせ動かせ、それでいて列車の振動に耐えられる軽くて丈夫な、“究極”の椅子だった。それを任されたのが、兵庫の椅子職人・迎山直樹(55)。迎山が立てた目標は1脚3キロ。同様の椅子は、通常5キロ以上はあるという。
迎山の椅子作りはすべて手作業。木と木の接合部を、くぎを使わない「ほぞ組み」という手法を用いて組み合わせる、卓越した使い手だ。木の個性を見極めながら絶妙な加減で木を加工していく。途中でのデザイン変更や数々の難関を乗り越えながら、軽さと丈夫さ、豪華列車にふさわしい風格を兼ねそろえた30脚の椅子を作り上げた。職人としての、流儀がある。「材料にとって一番いい状態を作り出すっていうのは人の手と目だからできる、加減。『いいかげん』じゃなくて。『良い加減』が大事だと思いますね」

写真一脚一脚に、魂を込めていく
写真壮観に並んだ、30脚の椅子


知られざる職人技の競演

8両編成の車内は、家具や装飾すべてがオーダーメード。いずれも、職人たちが水戸岡の困難な要求をこなすだけではなく、さらなる上を目指して作り上げられた。
ひときわ目を引く組子細工は、福岡県大川市の組子職人・木下正人が、0.1ミリの精度を追求して、手作業で仕上げた繊細な装飾。金色に輝く天井の装飾は、水戸岡がその技にほれ込んだ、埼玉の町工場が、「電気鋳造」という昔ながらの技術を用い、1万分の1ミリの精度で、模様や質感を表現した。さらに、車内の木製の手すりやドアハンドルも1点もの。世界でも珍しい木製ドアハンドル作家・高橋靖史が生み出す木の手すりは、「ずっと触っていたくなるような」触り心地を目指し、旅の楽しみを演出する。

写真車内の随所に散りばめられた、組子細工
写真電気鋳造で作られた、輝く金色の天井
写真触り心地を計算された、手すり


手探りの痕が、“強さ”になる

列車の顔を決める重要な装飾、先頭車両のライトを縁取る、「ライトガード」。その製作を水戸岡から依頼されたのが、1点ものの金物加工のプロ、“鉄の町”北九州の職人集団だ。しかし、車体は25年前の車両の再利用。流線型で丸みを帯びた車体に、硬い金属を沿わせるのは容易ではなかった。「何でもつくる」ことをモットーとする職人たち。あえて、その手で、しっくりくる最高の形を探し続ける。完成直前、車両基地で「ライトガード」に誤差があったことが判明。ぎりぎりまで手探りで、完成に近づけていく。何が正解なのか、立ち止まりながらも考え続ける、その痕跡が、できたものの“強さ”になると信じて。

写真列車の「顔」も、手作業で作られた
写真「何でもつくる」がモットーの職人集団