カフェが併設されていたり、雑貨が売られていたり……。そんな本屋さんに入ったことはありますか?
近年、こうした「複合型書店」が増えています。この秋には台湾で人気の複合型書店も、日本でオープンする予定です。全国の特徴的な書店を紹介します。人気の背景を専門家に聞きました。(小勝千尋)
蔦屋家電
ライフスタイルが買える!?
カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する複合型書店「蔦屋書店」の姉妹店「蔦屋家電」。
東京都と広島県に2店舗あります。東京・二子玉川の店舗には、コーヒーチェーン店「スターバックス」や、iPhoneなどを販売する「Apple」などが併設されているほか、「食」「住」「音楽」「文具」「美容」をテーマに、本や家電製品、文具、雑貨などが並びます。
「ここでは、ものを売るというよりも、その先にあるライフスタイルの提案をしています」と、店長の大迫由典さんは話します。
例えば、コーヒーに関する本の近くには、コーヒー豆とコーヒーケトル、カップがディスプレーされています。「それぞれのものではなく『コーヒーを飲む生活』を提案しているのです」
商品は定期的に入れ替えられ、何度来ても楽しむことができます。店内にはお客さんが求める暮らしに一番ふさわしいものをおすすめする「コンシェルジュ」がいて、案内や提案をしています。
「美容」のコーナーの隣にはネイルやヘッドスパを受けられる美容院、子どもの本コーナーの隣には知育玩具のお店があります。リフォームやインテリアの雑誌が並ぶ棚の近くには、リフォームについて相談できるカウンターまで。「体験していただくことで、理想の生活を具体的に描くお手伝いができればと思っています」
BOOK&BED
泊まれるけど、眠れない?
書店の進化の形はさまざまです。「泊まれる本屋さん」も登場しています。この言葉をコンセプトとして運営している「BOOK&BED」は、実際には書店ではなく、ホテルです。全国に6店舗あり、本でいっぱいの店内に宿泊するほか、昼間に少しだけ滞在することもできます。
海外からの観光客による利用も多いといいます。本を買うことはできませんが、さまざまな本と出会い、本に囲まれて眠るという新しい体験ができる施設として、国内外から注目されています。
誠品生活
台湾で人気! 秋オープン
台湾で人気の複合型文化施設の「誠品生活」が今年の秋、東京・日本橋にオープンします。日本への出店は初めてです。
誠品は1989年に台北で創業し、現在48店舗。日本での運営や本の仕入れを担うのは日本の大手書店「有隣堂」です。本、文具・雑貨、体験型の物販・ワークショップ、レストランなどのエリアで構成されます。
日本の本はもちろん、台湾を始めとした海外の本も並びます。伝統的なもの作り体験ができるワークショップなども開催される予定といいます。
天狼院書店
利用客の声で進化し続ける
「天狼院書店」は、本の編集や小説家、書店員として活動していた三浦崇典さんが始めた書店です。東京・池袋に3店舗を構えるほか、京都と福岡にも店舗があります。
書店が衰退しつつある中、作家の才能の後押しや「プラスα」することで書店を盛り上げていけないかと考え、天狼院書店をつくったといいます。
創業の2013年から働く山本海鈴さんは「初めは本を売っていただけなのですが、お客さんの声に合わせてどんどん変化していきました」。
提供するのは、本そのものではなく「リーディングライフ」だと山本さんは話します。
例えば、カメラの本を買う人は「カメラが使える自分」が欲しいはず。そこで、店内でゼミや部活などのイベントを開催するようになりました。
店主の三浦さんが講師として開講する「ライティング・ゼミ」には、10~70代の生徒が全国から集まるといいます。
最近は、店内を改装してバーカウンターができました。「カレーや豚汁がおいしいと人気です。これからもお客さんの声に応えて、どんどん進化していくと思います」
ネット普及で役割変化
上智大学文学部准教授 柴野京子さん
「特徴的な書店が出てきたのは、ここ10年の間。特に5年ほど前から急激に増えてきました」と話すのは、上智大学文学部新聞学科准教授の柴野京子さん。書店の売り上げが下がってきたことが背景にあるといいます。
日本の多くの書店では、本のほかに雑誌を販売しています。雑誌は、販売価格に対して原価が安く、書店の売り上げを支えてきました。
しかし、インターネットの普及などにより、雑誌の売り上げは低下。多くの書店で利益が出なくなり、いままで雑誌を売って得ていた利益分を、ほかのものでまかなわなければならなくなりました。「そこで、利益率の高いコーヒーや雑貨などを売るようになったのです」
柴野さんは、消費者が書店に求めるものも変化してきていると話します。かつて書店は、さまざまな分野の本がまんべんなく置いてあり、情報を手に入れるための場所でした。しかし、インターネットで調べることが増えたり、本をすぐに購入できたりするようになったことで、その役割は必要なくなりました。
「本があって、心が落ち着く、ゆったりできるという雰囲気を楽しめる空間として、書店が求められるようになっています」
カフェや雑貨店が併設された書店は増え続け、飽和状態になりつつあります。今後は、どうしたらまた来てもらえるのか、地域のお客さんが求めていることは何なのかを考え、工夫していく必要があると指摘します。
「いろいろな地域で、ぜひ書店に入ってみてください」と柴野さん。なぜ書店をしているのか質問してみたり、その書店ならではの特色を探してみたりするとおもしろいといいます。
「最近では、実際に作家が書店に来て、交流できるイベントが増えています。好きな作家に会いに行くのもいいですね」