『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』
四則計算ができていれば十分
「数学はすべての学問の基礎であり重要なものですが、研究の世界の主流はむしろ理科なのだということは、はっきり申し上げておきましょう。
そして理系分野において、私が携わる生物学は、最も大きなフィールドであることも明示しておきたい(笑)。生物学には医学も含まれますから、領域としてはひじょうに大きいのです。
生物学を学び研究するうえでは、高度な数学的知識など必要なくて、じつは基本的な四則計算ができればたいてい事足ります。少なくとも、微分積分に通じていなければならないといったことはありません。
ですから小中学校や高校で、いま算数や数学に苦労している人も、『自分は生物学のような理系の分野に進むのは無理だ』なんて思う必要は、まったくありませんからね」
文系学生にも理系センスのある人がいる
そういうものかと、すこし安心するものだな。
福岡さんは現在、青山学院大学総合文化政策学部の教授職に就いているのだが、文系学部の学生と話していて「この人は理科系のセンスを持っているな」と感じることも多いそうだ。
「とくに生物系は、求められるのがアーティスティックな感覚だったりします。
たとえば細胞を研究するとき、細胞一つひとつは微小なので肉眼では見えず、顕微鏡を用います。ただしごく小さいとはいえ、そのまま顕微鏡で見るには厚みがありすぎる。そこで薄切りにして切片をつくります。
そうした切片を観察するときには、これは細胞をどの角度で切った断面なのか、脳内でうまく像を描ける力があるとたいへん重宝します。
いわばCTスキャナーが頭の中に備わっているような能力が、生物学ではとても大切なのです。
この力は、微分積分がスラスラできるような数学的能力というよりは、石膏デッサンがうまく描けるといった芸術的才能のほうに近い。
この一点を見ても、数学ができないから理科系には向いていないなどと言えないのがよくわかります」
ならば理科系を目指すにしても、文系科目や芸術的感性を養うことに重点を置いて準備をすればいいのかといえば、そうもいかない。
「実際に生物学者になるためには、受験で数学の点数をしっかり取って理科系の学部に進まないと、スタート地点にも立てないという現実はありますからね。
受験制度という壁があるのなら、そこは少し我慢して乗り越えていただくよりほかないでしょうか。
行き先には、好きなことを存分に学ぶという『大いなる自由』が待っているので、まずは割り切って数学などもしっかり勉強し、ぜひ受験を突破してきてください。
福岡伸一 1959年9月29日、東京都生まれ。生物学者。青山学院大学総合文化政策学部教授、ロックフェラー大学客員教授。京都大学大学院で学んだ後、米国のロックフェラー大学やハーバード大学で研究活動をおこなう。京都大学などで教鞭を執り、現職。おもな著書に、『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』などがある。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
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