お姫さま お菓子物語
ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリアAnna Maria Russell, Duchess of Bedford(1783~1857年)
「紅茶の国」イギリスには、「アフタヌーンティー」を楽しむ習慣があります。アフタヌーンティーとは、その名前の通り「午後のお茶」のことで、午後4時ごろ~6時ごろまでにいただきます。この習慣をつくったのが、ベッドフォード公爵夫人、アンナ・マリアだといわれます。
アンナ・マリアは、1783年、ハリントン伯爵の長女として生まれました。1808年、第7代ベッドフォード公爵のフランシス・ラッセルと結婚。夫のベッドフォード公爵は、アンナ夫人を心から愛していましたので、2人は仲むつまじく暮らしました。
ある日、社交家であったベッドフォード公爵は、ロンドン郊外の館に1万2千人のお客さまを招くパーティーを催しました。その席には、ビクトリア女王もおいでになり、館に3日間滞在されたという記録が残されています。
アンナ夫人は、心優しく、話上手な女性でしたから、貴族社会でとても人気がありました。ガーデニング(園芸)や、演劇、刺しゅうなどの話で盛り上がり、お客さまを喜ばせていたそうです。19世紀中ごろのイギリスでは、夕食は午後9時ごろでした。
その前の時間帯は、音楽会やオペラ観劇などにあてられていて、夕食が遅かったのです。そこで、おなかがすかないようにとの配慮から考案されたのが、アフタヌーンティーの習慣です。紅茶といっしょに軽食をとることが目的でしたが、優雅なお茶会は、やがて貴族の女性たちの社交の場として広がりをみせていきました。アンナ夫人は、57年に亡くなるまで、社交界の花としてかがやいていたということです。
☆スコーン
正式なアフタヌーンティーは、紅茶とともにサンドイッチ、スコーン、お菓子(ケーキ類)が3段トレーにのります。その中でスコーンは、アフタヌーンティーには欠かせない重要なものです。スコーンは、小麦粉、バター、牛乳、ベーキングパウダーなどをまぜ合わせて焼いた、丸い小形のパンです。
焼き立ての豊かなバターの香りがするスコーンには、イチゴジャムやクロテッドクリームが添えられます。スコーンは、小さいものほど上品なんですよ。「クロテッドクリーム」というのは、乳脂肪分が60~70%ある固形状のクリームです。「クロテッド」とは「固まった」という意味。脂肪分の高い牛乳を煮つめて一晩ねかせると、表面に脂肪分が固まるので、それを集めて作ります。
食べ方は、スコーンの横の裂け目を手で割り、イチゴジャムやクロテッドクリームをのせて、2、3口で食べましょう。通の人は、「クリームティー」といって、スコーンだけで紅茶をいただくこともあります。今回は、イギリスの貴族に伝わる作り方を紹介しますね。
〈材 料〉
(直径5センチのもの
9~10個分)
薄力粉……150グラム
強力粉……80グラム
ベーキングパウダー……5グラム
グラニュー糖……30グラム
塩……ひとつまみ
無塩バター……60グラム
卵(Mサイズ)……1個
牛乳……80グラム
打ち粉……適量
牛乳(つや出し用)……適量
〈作り方〉
① 薄力粉、強力粉、ベーキングパウダーは、合わせて、ふるっておく。
② 無塩バターを1センチ程度の角切りにしておき、しっかりと冷蔵庫で冷やしておく。
③ 大きめのボウルに①の粉、②の無塩バターを入れる。グラニュー糖、塩も加え、ゴムべらを使い、バターを切るようにまぜる。
④ 無塩バターのかたまりが小さくなり、粉チーズのようになったら、卵と牛乳を加える。さっくりとまぜ合わせ、ひとまとめにし、ラップで包み、冷蔵庫で1時間ほどねかせる。
⑤ 打ち粉をした台に、ねかせた生地をのせ、1・5センチ程度の厚さに広げる。型でぬき、つや出しの牛乳をうすくぬり、180度に温めておいたオーブンで15分焼く。
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【監修】今田美奈子(いまだ・みなこ)洋菓子・食卓芸術家
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