『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』
探求が新たな学びを生む
自身の手がける生物学への愛情に満ちた言葉が、福岡さんの口からはたくさん発せられる。ときに、福岡さんは理科の勉強にどう取り組んできたのだろう。
理科の成績がよかったであろうことは予想できるのだが、特別な勉強法でもあったのか。
「小さいころは、いえいまだって何ら変わりませんが、とにかく虫が大好きでした。
ときは昭和の時代で、インターネットもスマホもありませんから、蝶の標本ひとつつくるにも、図鑑で調べたり、あれこれ本を読んだりしなければいけませんでした。
それが自然と理科の勉強になっていたところはありますね。
ですから、理科の勉強でさほど苦労したことはありません。好きこそものの上手なれという言葉のとおり、対象に関心を持ってみずから探索していくと、勉強は楽しくなるものです」
学びの対象になるものは、学校の教科に当てはまらないものだって、いっこうにかまわないそうだ。
「好きなことがあるのなら、いろんな角度から調べ続けていくといい。そのうちそれが人生の宝物になっていくことでしょう。
たとえば大好きな小説があるとする。なぜその小説がそれほど自分に『ハマる』のか考察を深めてみる。または著者はどういう人なのか、詳しく調べてみる。どこに住んでいたのかわかるなら、その土地に行ってみるのもいい。
そこからまたいろんな発見が生まれますよ。
自分の惹かれるものをよくよく観察し、どこにおもしろさを感じているかを考え、そこを手がかりにものごとを探究していくと、芋づる式にいろんな学びを得ることができるはずです。
小学生時代、フェルメールに出合う
自分の経験から言いますと、私はかねてから17世紀のフェルメールという画家が大好きです。すべての作品をみにいく旅を長らく続けてきました。
このフェルメールという『夢中になれる対象』との出会いは、小学生のときでした。
先ほど述べたとおり虫が大好きだった私は、その虫を観察するための顕微鏡にもたいへん興味を持っていました。
そこで顕微鏡の歴史をたどっていましたら、17世紀オランダで活躍したアマチュア科学者レーウェンフックという人に行き当たりました。
その人の生きた時代をさらに調べていると、同じ町にはフェルメールという画家も住んでいたという。そうか、こんな人もいたのかと認識はしたものの、そのことはすぐに忘れてしまっていました。
のちになって米国へ留学していたとき、美術館へ足をのばしてみると、実物のフェルメール作品と出会えました。小さくて写実的な絵の画面から科学者的な視点が感じられて、強く惹かれました。
聞けばフェルメール作品は世界に37点しか現存しないという(※注)。これは全部みてみたい。世界中を訪ね歩こうと決意を固めました。37というのは素数ですしね。そういうところにもつい、美しさと宿命を感じてしまうんです。
20年ほどかけて全点をみて回りました。フェルメールは知れば知るほど謎が深まっていく不思議な存在です。
いまだ魅せられ続けていますが、こんな楽しみだって、小さいころのちょっとした興味・関心を持続してきた結果ということになりますね」
みずから学び続けることが、福岡さんの人生をつくり、彩ってきたことがよくわかる話だ。その姿勢から感じ取れることは、たくさんありそうだぞ。
※注 一部、真贋論争中の作品も含む。
福岡伸一 1959年9月29日、東京都生まれ。生物学者。青山学院大学総合文化政策学部教授、ロックフェラー大学客員教授。京都大学大学院で学んだ後、米国のロックフェラー大学やハーバード大学で研究活動をおこなう。京都大学などで教鞭を執り、現職。おもな著書に、『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』などがある。
* *
「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
外部リンク