宿題、テスト、担任制を廃止。斬新な改革で大きな成果
東京・千代田区立麹町中学校という名前、このところあちらこちらのメディアで耳にしたことがあるんじゃないか?
中間・期末テストはしない、宿題を出さない、固定担任制はやめる、服装頭髪指導をおこなわないこととし、生徒、教員、保護者がそれぞれ自律した主体となることを標榜して、大きな成果を挙げている公立中学校である。
6年前に校長に就任し、この改革を為したのが工藤勇一さんだ。
その経緯と考えをまとめた著書『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)は、ベストセラーにもなっていて話題だな。
今回、国会や最高裁判所がすぐそばの一等地にある麹町中学校の校長室へ、工藤勇一校長の話を伺いに行ったところ、真っ先に麹町中学校が発行した「学校だより」を、うれしそうに見せてくれたぞ。
「今日は僕たちの3年間を振り返って、2つの話をしたいと思います。」
「学校だより」には、こんな出だしの長い文章が載っている。
これは「第71期 卒業生の言葉」と題されたもの。そう、今春に催された同中学校の卒業式で、卒業生代表の生徒会長が壇上でしたスピーチが、丸ごと載っているんだ。
扱うテーマの数量を最初に明示するところなど、スピーチのポイントを押さえていてみごとだな。
続けて「最初の話は『リスペクト』です」「この学校では何度も聞いた言葉だと思います」とスピーチは展開し、癖の強い卒業生がたくさんいた実例を挙げたうえで、個性や考え、チャレンジを尊重できる環境で中学生活を過ごせたことに感謝するのだ。
もうひとつの話は「ゴール」、つまり目標について。
体育祭の目標は「全員が楽しめる体育祭」だったので、「全員リレー」という種目をやらない判断をしたという。運動が得意じゃない生徒からの少数意見を尊重してのことだ。
こうして自分たちが中学校で学んだ成果を披露したのち、周りへの感謝の言葉で締めくくる……。文面を読むだけでも涙腺を刺激するスピーチだ。
「実際には、プレゼンテーションとしても完璧だったんですよ。ヘッドセットをつけて、Appleのスティーブ・ジョブズのように歩きながら、堂々と。もともと人前で話すのが少し苦手な生徒会長だったのに、最後にはバッチリ決めてくれました」
とはいえ、定期テストもなければ風紀検査もしないようで、学校運営がうまくいくの? 生徒をうまく指導できるのか? と思ってしまうだろうか。
だとしたら、上に紹介した卒業式での生徒がひとつの答えだ。
ビジネスパーソンも顔負けのプレゼンテーションができてしまうほどに、麹町中学校の生徒たちは自律した存在に育って卒業していくのだ。
次回、どうやってこの中学校改革が実現したのか、工藤校長にさらに聞くぞ。
工藤勇一 1960年、山形県鶴岡市生まれ。数学教諭。千代田区立麹町中学校長。東京理科大学理学部応用数学科を卒業後、山形県の公立中学校で教える。その後、東京都の公立中学校でも教鞭を執り、東京都教育委員会、目黒区教育委員会を経て、新宿区教育委員会教育指導課長などを務める。2014年から千代田区立麹町中学校長に就任、数々の改革をおこなう。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※工藤勇一さんのインタビューは、9月2、4、6、9、11日に全5回配信します。今回は第1回でした。
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