世代を超えたステキな歌を届けてくれるタニケンさんに、インタビュー
歌いながら手と手をタッチ。目と目を合わせてニッコリ
優しさ、温かみにあふれた柔らかな歌声で心を癒やしてくれるタニケンさん。「歌はコミュニケーションツール」と、ライブでは表情はもちろん、身ぶり手ぶりも豊かに、子どもたちをはじめあらゆる世代の来場者と心を通わせています。そんなタニケンさんに歌に込める思いや、親子で歌を楽しむコツを聞きました。 取材・文/藤田実子 撮影/キノシタメグミ
声に個性がないのがコンプレックスだった
子どもの頃から歌うのが大好きでした。兵庫県の山あいの田舎町で育ったため、犬の散歩のときなど大声で歌いながら歩いていても誰にも文句を言われなかったんです。チェッカーズの「涙のリクエスト」を真っ暗な夜道で熱唱していましたね(笑い)。
中高生の頃は、こういったはやりのポップスやビートルズ、ボブ・ディランなどの洋楽が好きで、ロック歌手などを夢見ていました。大人になってライブ活動などをするようになると、「もっと声をつぶした方がいいんじゃない?」と言われたりすることも多く、声に個性がないというのがコンプレックスでした。
子どもたちに美しい日本語を届けたい
転機は、NHK Eテレの「フックブックロー」で平積傑作・通称けっさくくんの役をもらったことです。子どもたちはもちろん、一緒に見ているいろいろな年代の人たちの心に届くような歌が選曲されていたんです。そして、番組の原作者であり偉大な作詞家である故・山川啓介先生に「君はすてきなものを持っているね」と声をほめられたんです!
それからですね、「このままでいいんだ。これでいいんだ」と自分の声に自信が持てるようになったのは。また、この番組がきっかけで、子どもたちに歌を届けるという喜びに目覚め、自分の方向性が定まりました。山川先生、それから作曲家の服部隆之先生に出会うことができたのは、僕の人生にとって本当に大きなことでした。「子どもたちにこそ、美しい日本語を届けないとね」と言われ、歌詞やメロディーのよさはもちろん、発音にも気をつかっています。
歌い継がれてきた名曲に思いを込めて
歌選びも、オリジナル曲を出すことにこだわらず、小さなお子さんからお年寄りまでみんなで一緒に歌えるような、歌い継がれてきた名曲を自分の声で届けたいと思うようになりました。そんな思いの中から生まれた企画が、先月リリースした「Suteki Song Shop」というCDです。
僕はすてきな歌がそろっているお店の店長さんという設定。年4回のペースでリリースする予定ですが、今回は「あしたははれる」を筆頭に、童謡、懐メロ、キッズソングなどいろいろなジャンルの曲を選曲しています。
「あしたははれる」は、うたのおにいさんとして活躍されるだけでなく、数々の名曲を生み出した坂田おさむさんの歌です。
歌詞が心にスーッと入ってきて、いつまでも余韻が残りますよね。「フックブックロー」のオープニング曲「青空しんこきゅう」は、山川先生の作詞、服部先生の作曲で、僕にとってとても大切な歌。「走っても、歩いても地球のスピードは同じです。焦っても、のんびりでも明日はちゃんと来るんです……」って歌詞も心にしみます。これはお子さんだけでなく、毎日頑張っている大人の人にも聴いてもらいたい名曲です。
子どもたちには、自然に体が動く楽しい歌を
子どもたちに向けて歌を歌っていて思うのは、心をつかむのに「インパクト」は大事、ということです。僕は憧れのボブ・ディランをまねしてこのヘアスタイルにしていたのですが、これが子どもにウケたんですね(笑い)。また、大きな声で歌うことで、子どもたちも一緒に歌いやすくなるようです。
そして手拍子を打ったり、隣の人と手をつないだり、タッチしたり、手遊びを入れたり。わーっと手を振る、イエーイと手を上げる、歌に合わせて体を動かすなど身ぶり手ぶりをすると子どももどんどんノリがよくなります。「バスにのって」「しゅりけんにんじゃ」はライブでお子さんたちのノリがものすごくいい曲なので、今回のCDにも収録しています。
楽しみ方はいろいろ子どもの個性を尊重する
おうちで歌を聴くときも、お子さんと一緒に歌ったり、身ぶり手ぶりをしたりして、歌を全身で楽しんでもらえたらうれしいですね。とはいえ、「歌を楽しむこと」を強制しないでくださいね。まずはお母さん、お父さんたちが楽しんでいる姿を見せることが大事。
僕もいつも本気で楽しく歌っているんです。じゃないと子どもにはすぐに見抜かれてしまいます。また、すぐに一緒に歌ったりはしゃいだりする子どももいれば、じーっと聴いたり観察したりして自分の内面で静かに楽しんでいる子どももいます。いろいろな性格があるように、感情表現も本当にさまざまです。「うちの子、ノリが悪い」「音楽が好きじゃないみたい」なんて決めつけたりせず、その子なりの楽しみ方を尊重してあげてくださいね。
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タニケンさん(谷本賢一郎) 1974年生まれ、兵庫県佐用町出身。2011年からNHK E テレで放送されていた「フックブックロー」けっさくくん役としてレギュラー出演(16年4月終了)。NHKエデュケーショナル「遊育(あそいく)」から生まれた「たにぞう&タニケン&きよこのからだ遊育計画」(キングレコード)のCD&DVDを18年にリリース。19年2月にはソロ活動第1弾「うたの店長さん タニケンのすてきな歌がそろっています Suteki Song Shop ~あしたははれる」をリリース。全国で行うファミリーコンサートに加え、野外フェスにも出演するかたわら、ほぼ毎月福島の被災地訪問や、学校・保育園・幼稚園でもミニライブ活動もライフワークの一環として行っている。
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