4月23日(金)、「最終章」の前篇にあたる『るろうに剣心 最終章 The Final』が公開! シリーズを通して監督・脚本を務めた大友啓史氏にインタビューした。その後篇。
【前篇を読む】
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
武士道の魂を現代に描く
「るろうに剣心」シリーズをはじめとする大友啓史作品独自の魅力のひとつに、画面のリッチな美しさがある。
「カラーグレーディングにはこだわります。たとえば今回の『The Final』も『The Beginning』も夜のシーンが多い。特に『The Beginning』の場合、あの時代の武士の衣裳は暗めの色が多いですよね。その衣裳を着て暗い空間でアクションをすると、動きのディテールが黒に沈んで見えなくなってしまいます。これはお客さんにとっていちばんフラストレーションを感じることです。それで現場ではトーンを決めつつ、照明を明るめに当てる。あとでグレーディングで絞り、黒のグラデーションを作っていきます。撮影監督の石坂(拓郎)さんと相談しながら、1画面のなかでも、ここは黒く絞って、こっちはグレーを少し混ぜてみようとか、画面の場所によって程度を変えていく。人肌の色に対しても同じことを行なっています。
大友啓史監督音に関してもそうです。刀などの音ももちろんですが、あの時代の武士だと当然腹の底から声が出ていなければならない。俳優それぞれの発声具合に合わせて、声の低音域をぐっと上げたり、高音を叩いたりしています。
だから撮影が終わっても、作業全体としては5割しか終わっていない感じですね。グレーディングを含め、ポストプロダクションでやる作業が僕の場合は多い。作業の内容を説明すると、みなさん結構びっくりされます」
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より『るろうに剣心』は原作マンガも実写映画シリーズも世界的人気作品となっている。その核にあるのは意外にも、新渡戸稲造の『武士道』と通じ合う精神だと大友監督は考えている。
「『武士道』は英語で書かれて当時ベストセラーになり、日本のサムライの生き方や価値観を世界中に広める役割を果たしました。明治時代に書かれた、その『武士道』が、いまの時代にマンガとして翻案されたものが『るろうに剣心』だと僕は解釈してるんですよ。新渡戸稲造はキリスト教徒であり、弱者の味方ですから、精神は『るろうに剣心』で言うところの「不殺(ころさず)の誓い」、「活人剣(人を活かす剣)」に近い。武士の究極の神髄は、剣を抜かずに勝敗を決することであり、武士道に代わって新しい日本を作っていくのは平民道である。散り行く桜のように、武士道は日本固有の美学として残っていくと新渡戸は言います。
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より『龍馬伝』(2010、NHK大河ドラマ)で僕が描いた龍馬は、志半ばで何者かにはしごを外され、殺されてしまう。剣心もまた、さんざん人を斬って苦しい思いをして討幕派のために尽くしてきたのに、名利を求めず、新政府のなかで地位を得ることもしなかった。彼は市井の人びとのなかにまぎれて「るろうに」として生き、斬れない刀=逆刃刀で目に映る人たちを助けていく。これこそ武士道であり、かっこいいなあと思うわけです。剣心はまさに「剣の心」、ハート・オブ・ソードですからね」
すべてを引き受けた俳優・佐藤健
主人公・緋村剣心を生き抜いたのは佐藤健。第1作の撮影時は20歳を少し超えたばかり、まだ少年の面影が残っていた佐藤にとって、このシリーズはそのまま、彼が日本を代表する俳優のひとりへと駆け上がっていく過程でもあった。剣心の複数の面を見せる今回の2部作は、俳優・佐藤健の集大成といえる作品になったのではと思えるが、大友監督の眼に、彼の成長はどのように映っているのだろうか。
シリーズを通じて主人公の緋村剣心を演じた佐藤健(『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より)「1作目のとき、彼はまだ映画の主演の経験もなかったのに、これほどの規模の大作映画をいきなり背負うことになった。大抜擢ですよ。こんな大抜擢はその後の日本映画にもないと思う。しかも周りは香川照之さんや吉川晃司さん、蒼井優さんなど、一歩間違うと佐藤健を食ってしまうようなキャスティング。怪我をしたら撮影は止まってしまう。責任もあるし、作品に賭けるみんなの思いも受け止めなきゃいけない。必死だったと思います。
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より1作目の最後のシーンを撮り終わったときは、子どもみたいに両手を広げて「やったー、終わったー!」って俺に抱き着いてきました。2作目、3作目で少しずつ慣れてきて、そのあと5年ぐらい経って今回ですから、もう終わってもどっしりですよ。「ありがとうございます!」って全員に感謝するのは変わらないんだけど、そのあとは落ち着いてコメントをみんなに投げている。むしろその脇で青木崇高が感動して泣いてる(笑)。「この10年を支えてきた健のことを思うと……」って。
1作目も大作でしたが、2作目、3作目とどんどん予算規模も作品のスケールも膨れ上がっていきます。背負うものもますます大きくなっていったでしょう。物事を俯瞰して見る目はもともと持っていた人です。『龍馬伝』で人斬り以蔵の役をやっていたころ、彼は周りにまみれたり誰かのご機嫌をとったりせず、自分のやるべきことに集中していくタイプでした。その後もそのスタンスでずっとやってきた。やるべきことに集中し、周囲が期待した以上の結果をひとつひとつ出していく。それを見せることで周りの人たちを引っぱっていく。そうやって座長らしくなっていきましたね。
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より今回の2本はほんとにたいへんだったと思います。『The Final』と『The Beginning』で、剣心がまったく違う見え方をしなければいけないから。しかもあんなアクションもやりながら。でもそういうたいへんさを佐藤健は全部引き受けて、しっかりやりきってくれました」
大友監督、佐藤健ら、固いきずなのプロフェッショナル集団が全力を注ぎこんだ一大フィナーレ。日本映画史に刻まれるだろう2本をお見逃しなく!
『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
The Final 2021年4月23日(金)/The Beginning 2021年6月4日(金)
2作連続ロードショー
配給: ワーナー・ブラザース映画
©和月伸宏/集英社 ©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
オフィシャルサイト: rurouni-kenshin.jp
公式Twitter/公式Instagram: @ruroken_movie
大友啓史(おおとも けいし)
1966年岩手県盛岡市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。90年NHK入局、秋田放送局を経て、97年から2年間L.A.に留学、ハリウッドにて脚本や映像演出に関わることを学ぶ。帰国後、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ、『深く潜れ』『ハゲタカ』『白洲次郎』、大河ドラマ『龍馬伝』等の演出、映画『ハゲタカ』(09年)監督を務める。2011年4月NHK退局、株式会社大友啓史事務所を設立。同年、ワーナー・ブラザースと日本人初の複数本監督契約を締結する。『るろうに剣心』(12)『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)が大ヒットを記録。『プラチナデータ』(13)、『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『ミュージアム』(16)、『3月のライオン』二部作(17)、『億男』(18)など話題作を次々と手がける。2020年2月14日に『影裏』が劇場公開された。
篠儀直子(しのぎ なおこ)
PROFILE
翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)など。
写真・井上佐由紀
ギャラリー:映画「るろうに剣心」シリーズついに完結! 大友啓史監督が語る、佐藤健との10年
シリーズを通じて主人公の緋村剣心を演じた佐藤健(『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より)
大友啓史監督
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
大友啓史監督
大友啓史監督
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
大友啓史監督
大友啓史監督
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より