音楽はお好き? 語りが主役の「ピーターと狼」
幼稚園の年少の人向きに作られた管弦楽曲の中で、群をぬいて演奏の機会が多いのは「ピーターと狼」でしょう。みなさんもきっと学校で聞いたことがあるのではないかと思います。
作曲されたのは1936年ですから、ロシアがソビエト連邦と呼ばれていた時代でした。当時の音楽家は国の考え方にしたがって芸術活動をすることを求められていましたが、これはオーケストラで使われる楽器を子どもたちに理解させるために書かれたものです。
作曲者のプロコフィエフ(1891~1953年)は、自分で物語も書き、たった1週間で曲を完成させたといいますから、やる気満々だったのでしょう。楽しんで作曲しているようすが、音楽のどの部分からも伝わってきます。
牧場におじいさんと暮らすピーターが悪い灰色オオカミを、友だちの動物たちと協力してつかまえ、動物園に連れて行くという冒険物語です。
この作品の特徴としては、それぞれの登場人物と楽器、それに用いられる音楽(主題)が常に一致していることです。ピーターは弦楽合奏で生き生きとした感じ、小鳥はフルートでさえずりの音を、アヒルはオーボエでわめき声を、ネコはクラリネットでしなやかな歩き方を、特にファゴットで演奏されるおじいさんのしわがれた声は、思わず笑ってしまいそうです。
かんじんのオオカミはむごいことを平気でする性格が3本のホルンで、追ってきた狩人は打楽器で表されます。これは、本当にその楽器の特性を理解して書いていると感心します。
もう一つの特徴は、音楽と同時に語り手が物語を伝えることです。初めの間は楽器が全部休んだところ(ゲネラルパウゼと呼ぶ)で自由に話すのですが、後半は音楽に乗って、とてもはつらつと語るのです。
作者が書いた台本が各国の言葉に訳されていますから、みなさんもやってみるといいですね。演劇や朗読の好きな人なら、きっとうまくいきますよ。オーケストラの部分をピアノで弾けるようにした楽譜もありますから。ぜひ試してみてください。
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青島広志(あおしま・ひろし)。1955年、東京生まれ。東京芸術大学、同大学院修士課程を首席で卒業、修了。「火の鳥」「11ぴきのネコ」などこれまでに200曲あまりを作曲。著書に『クラシックの時間ですよ!』など。東京芸術大学講師、洗足学園音楽大学客員教授。テレビ出演多数。イラストも筆者
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