結婚しても旧姓を使いたいのに認められないのは「法の下の平等」を保障する憲法に違反するのか――。
男女4人が国を相取って損害賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は3月25日、原告の請求を退けた。原告のソフトウェア会社「サイボウズ」社長の青野慶久さん(47)は控訴する方針で、裁判をきっかけに、夫婦別姓を選べるよう求める動きは広がっている。(解説者・畑山敦子)
15年の判例は覆らず「戸籍法も合憲」
結婚した夫婦が同じ姓を使わなければならないことは、民法750条で定められている。一方、戸籍法では、日本人と外国人が結婚した場合、同姓か別姓かを選べることになっている。
青野さんたちの訴訟では、民法ではなく戸籍法に着目。「日本人同士で結婚するとどちらかの姓しか選べないのは不合理で、憲法が保障する法の下の平等に違反する」と主張した。
民法の規定をめぐっては、2011年に東京都内の事実婚の夫婦らが、同姓か別姓かを選べる「選択的夫婦別姓」が実現するよう国に損害賠償を求めて裁判を起こした。
15年に最高裁判所が初めて下した判決では、夫婦同姓は「社会に定着しており、家族の姓を一つに定めることには合理性がある」とし、合憲と判断した。
今回の判決も、この判例をふまえている。民法上の姓と戸籍法上の氏(姓)は密接不可分の関係だとし、「社会で使用する法律上の氏(姓)は一つであることが予定されている」と指摘。
結婚後も戸籍法上の姓として旧姓を名乗れないのは「合理性がある」とし、憲法違反ではないとした。
また判決は、日本人と外国人の夫婦は戸籍法で姓が選べることについて「日本人と外国人の婚姻には民法の適用がない」と述べ、日本人同士の結婚と同列に扱えないとした。
国会の議論は進まず、旧姓使用は拡大
青野さんは01年に結婚して妻の姓に改姓したが、旧姓の「青野」で活動している。
パスポートなどは妻の姓に変更したものの、海外出張した先で取引先がホテルを「青野」の名で予約していたため、本人と認められず困ったことがあった。株式などの氏名を変更するのには約80万円かかった。
「姓が変わって、想像もしない不利益があった。二つの姓を使い分けることは精神的苦痛だけでなく、経済的損失を招く」と青野さんは言う。
女性の社会進出が進み、夫婦別姓を求める声は広がってきた。選択的夫婦別姓について内閣府の2017年度の調査では、法改正に賛成する人の割合が42・5%と過去と比べて最も高かった。
15年の最高裁判決では、選択的夫婦別姓の制度について国会での議論を求めているものの、進んでいない。
国は代わりに旧姓が利用できる環境整備を進めようとし、パスポートや住民基本台帳、マイナンバーカードで旧姓併記を認める方針だ。
しかし、青野さんらの提訴後も選択的夫婦別姓を求める訴訟は続いている。
三重県議会では3月、夫婦別姓について国会での法制化を求める意見書を可決するなど、問題の解決に政治が動くべきという声も出てきている。
青野さんは判決後の会見で「判決は残念だが、裁判が注目され、世論が動いたという手応えがある。次のアクションにつなげていきたい」と話し、控訴や政治家へ議論を呼びかけていくとした。
【外国人と結婚すると旧姓を使えるのはなぜ?】
未婚の人は父母の戸籍(個人の家族関係や身分を明らかにする公文書)に入っているが、結婚すると夫婦で新しい戸籍を作り、姓を選んだ方が戸籍の筆頭者となって夫婦は同じ姓を名乗る。
一方、日本人と外国人の結婚の場合、外国人が戸籍に入ることはないため、日本国籍を持つ人が戸籍の筆頭者になる。夫婦同姓という民法の規定はあてはまらず、結婚後も同じ姓を使い続けられる。
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