抗菌薬(抗生物質)は中耳炎や肺炎などの病気になったときに飲む薬で、原因となる細菌をやっつけます。しかし、抗菌薬の効かない細菌が増えています。原因の一つとして、専門家は「抗菌薬が正しく使われてこなかったこと」を挙げます。(小勝千尋)
ウイルスには効かない
「抗菌薬はウイルスをやっつける?」「すべて飲みきる必要がある?」
国立国際医療研究センター病院(東京)が今年8月、抗菌薬の飲み方が正しく理解されているかを調べたときの質問です。調査の結果、よく理解していない人がまだ多いことがわかりました。
抗菌薬がやっつけるのは細菌で、かぜやインフルエンザの原因となるウイルスではありません。しかし、およそ8割の人がウイルスにも効果があると誤解していました。
ウイルスも細菌と同じく感染症を引き起こす病原体ですが、大きさや、数が増えていく仕組みがちがいます。そのため、抗菌薬は効きません。また抗菌薬は、出された分をすべて飲みきらなくてはいけません。しかしおよそ4割の人が、飲みきらなくてもよいと誤解していました。
飲んだら途中でやめない
国立国際医療研究センター病院で、抗菌薬などについて研究し、知識を広めている具芳明さんは「医師や薬剤師に指示された通り、正しく飲むことが大切」と話します。症状が良くなっても、細菌は体の中にいることがあります。途中でやめてしまうと症状が再発することもあるそうです。
正しく使われてこなかったことなどが原因で、抗菌薬が効かない細菌が増えています。細菌は何十億年も前から、環境の変化に対して性質を変えながら生き残ってきました。
抗菌薬を飲みきらなかったり、必要のないときに飲んだりすると、ダメージを受けた細菌が生き残ろうとして変化することがあります。すると、前は効いた抗菌薬が効かなくなるのです。
また、抗菌薬は悪い菌と同時に良い菌も殺してしまいます。副作用で体調をくずしてしまうこともあり、「必要のないときに飲むのは危険。医師にも注意喚起をしています」と具さんは話します。
家畜の飼育方法も薬の効かない細菌が生まれる原因になっています。えさに少しずつ混ぜると成長が早くなるため、抗菌薬が使われてきたそうです。
細菌が肉に付いたり、野菜の肥料として使われるふんに細菌が混じったりすると、人の口にも細菌が入ります。「今は世界中で、育て方を見直そうという動きが出てきています」
私たちができることとして具さんは、「具合が悪くなったら、その都度、病院に行ってください。前にもらった薬を飲まないで」と話します。
これからの時期、かぜやインフルエンザの予防も重要です。「悪化して肺炎になると、抗菌薬を使うことになります。予防して健康を保ち、抗菌薬を使う機会を減らしていきましょう」
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