アップルは米国時間1月27日、2020年第一四半期決算(2019年10〜12月)を発表。売上高918億1900万ドルは前年同期比で8.9%増、過去最高を記録しました。
2019年はiPhoneの低迷で売上高が伸び悩みつつも、第3四半期からはサービス部門に加えてウェアラブルデバイスの成長、そしてiPadの新モデルの影響が加わり、iPhoneの穴をカバーしながら過去最高の売上高を記録するようになります。
そしてホリデーシーズンにはiPhone 11が絶好調で、最も売上高が伸びる四半期の決算を過去最高にまで押し上げました。アクティブインストールベースは15億、iPhoneのそれも10億に近づいており、これを背景にしてサービス部門の成長や、iPhoneと組み合わせて利用するウェアラブルデバイスの成長を実現させました。
特にiPhone低迷の原因だった中国市場も、前年同期比で3.8%増となり、こちらも良いニュース。しかし日本は売上高を6億ドル落とし、9.9%減。こちらについては別途、取り上げたいと思います。
さて、こうした好決算を維持すべく投入されると見られているのが廉価版のiPhone。春節明けの2月にも大量生産がスタートすると見られています。しかしこれに対して暗雲が立ち込めているのが、現在感染拡大が続く新型肺炎です。
この原稿を書いている2020年2月3日現在で、新型肺炎による死者数は361人となっており、中国以外での死者も確認され始めました。春節が明けましたが、追加で1週間の休業が中国政府から通達があり、人手不足によって中国の多くのビジネスが止まっている現状があります。
●好決算もさっそく懸念材料が
アップルは新型肺炎に関連し、当該地域で活動しているグループへの寄付を表明していますが、実際のビジネスにも影響が出始めています。
中国にある42の直営店は、少なくとも2月9日まで休業としています。アップルの中国における全ての売り上げが直営店からのものではありませんが、その他の店舗も営業していないことを考えると、1週間の休業は決算資料などから計算すると、8億5000万ドルの売り上げが消えることになります。もしこの休業が長引いて1ヵ月かかるとなると、およそ34億ドルの売上高がなくなり、アップルの2020年第2四半期の業績を5%以上押し下げる計算となってしまいます。
決算発表の電話会議で、新型肺炎について出された質問にTim Cook CEOが答えていますが、2020年第2四半期の売上高のガイダンスに630〜670億ドルの幅がある理由は、新型肺炎への懸念と不確実性を織り込んでいるため、としています。
確かに、前述の試算のマイナス幅と一致してはいますが、多くの場合、こうした感染症の収束には6ヶ月かかるとみられること、中国以外への影響も考えられることから、このガイダンスを下回る可能性も見ておく必要があるかもしれません。
●2020年のビジネス全体に影響も
というのも、武漢は中国の南北交通の交点であり、要所となっています。製造業も盛んで、アップルのサプライヤーも存在しています。
機能停止している1100万人都市、武漢のサプライヤーについては代替手段を用意して調達しているとも答えていましたが、武漢外のサプライヤーへのインパクトはまだわかっていません。現に、1週間の臨時休暇が指示され人が集まらなければ、武漢以外の組み立てを担当する工場の稼働も難しい状況ではないかと考えられます。
そこで問題となるのが、春にも予測される廉価版iPhoneについてです。2020年第1四半期(Appleの決算期では2020年第2四半期)に、iPhone 8をベースとしたiPhone SEの後継にあたるモデルを登場させるという予測が高まっていますが、2020年2月に製造を開始する計画が予定通り行なわれるのか、がポイントです。
実際、iPhoneの組み立ては中国が主ですが、ブラジルでも行なわれています。さらに、攻めあぐんでいるインド市場で、廉価版iPhoneの組み立てを開始するとの見方もあり、中国組み立て分がなくなることによる供給不足はあったとしても、製品のリリース自体は行なわれるかもしれません。
ただし、アップルにとっては思うように売り上げを伸ばせない要因であることは変わりありません。実際、2020年第1四半期決算では、絶好調だったApple Watch Series 3とAirPods Proは、供給不足が売り上げを抑制したと指摘しています。
Apple Watch Series 3については2020年第2四半期に改善するとのことでしたが、中国の経済がストップしている現状を考えると、これも遅れてしまうかもしれません。AirPods Proについては、そもそも品薄状態改善の見通しが立たないと指摘しており、中国以外のアジア諸国での組み立てもミックスされるようになっているはずですが、サプライヤーの問題もあり、問題は長引きそうです。
●世界の問題としてとらえる
日本は米国とともに、中国からの渡航制限、さらには健康相談窓口の拡充など、対策が進んでいます。その一方で、すでに仕事や学校以外の外出を控えるような動きも始まっているのではないでしょうか。
もちろんわざわざリスクを取る必要はないと思う一方で、普段の行動を自粛するような動きが先行しているならば、日本も新型肺炎による経済の押し下げの影響を大きく受けることになりそうです。
あまり中国のみの問題ととらえず、世界の問題として最新の情報に注意しながら、正しく予防していくことを心がけたいところです。