飲食店などを探すときに大きな影響力を持つGoogleマップの口コミ。評価が点数として表示されるため、根拠のない誹謗中傷を書かれると事業者はたまったものではない。
「2019年2月頃、全く身に覚えのない悪評を書き込まれました」。2020年1月、名古屋市で歯科医院をいとなむ男性歯科医から、弁護士ドットコムニュースのLINEに情報が寄せられた。
男性は口コミの投稿者を特定するため、法的手続きをとった。裁判所はGoogleに対し、発信者情報を開示するよう命じたものの、約20日後にGoogleから「記録がない」と言われた。男性は「もう何もできず、泣き寝入りなのか」と訴える。
裁判所から開示命令が出たはずなのに、どうして「ぬか喜び」になってしまったのか。背景には国内のプロバイダには見られない、Google特有の事情があった。
●男性「まさかこの段階でつまずくとは」
2019年2月、男性がいとなむ歯科医院のGoogleマップに「院長の技術がひどい」、「自分の歯がどんどんなくなる」、「こちらが質問すると次第に怒り出し、突然大声で威嚇してくる」といった口コミが書かれた。
インターネット上で誹謗中傷を受け、投稿者を特定しようとした場合、まず書き込んだ相手が誰なのか調べる必要がある。その際に重要となるのが、IPアドレスなどのログ(通信履歴)だ。
男性は書き込まれた内容に身に覚えがなかったことから、すぐに弁護士に相談。2019年3月29日、Googleに対し投稿者のIPアドレスの開示を求める「仮処分」を申し立てた。東京地裁は5月29日、Googleに対し投稿者のIPアドレス開示を命じた。
多くの事件では、次のステップとして、IPアドレスから判明したプロバイダに対し、氏名や住所、メールアドレスなどの情報開示を求める。投稿者を特定するためには、基本的に2回は裁判を起こす必要があるということだ。
しかし、今回Googleは裁判所の決定後、「対象となるIPアドレス情報を持っていない」と回答した。
男性は「まさかこの段階でつまずくとは思っていなかった」と落胆する。
「書かれた側は、このGoogleの対応に対して何もできないのでしょうか。私はGoogleやプロバイダと争いたいわけではなく、事実無根の書き込みをした人を特定したいだけです」
●国内プロバイダはすぐにログの有無を確認するが…
国内のプロバイダが相手なら男性のような事態は起こりづらい。ログが消えていた場合、裁判中に「保有していない」と回答するためだ。
「発信者情報開示関係ガイドライン」では、「開示を請求されている発信者情報を保有しているか否かについて、速やかに確認する」と定められている。
このガイドラインは、電気通信事業者やインターネットプロバイダなど4つの業界団体による協議会でつくられており、「会員企業は基本的に遵守している」(検討協議会の事務局)という。
一方、インターネットの権利侵害問題にくわしい弁護士によると、Googleは裁判中にログの有無を調査しない傾向があるという。同社のプライバシーポリシーには、個人情報などの開示条件として、次のように書かれている。
「法律上の義務に応じて、または法律上認められる範囲内で、Google、Google ユーザー、または一般の人々の権利、財産、または安全に害が及ぶことを防ぐため」
ここからも、裁判所の判断が出るまでは、なるべくユーザーのデータに触れないというGoogleのスタンスがうかがえる。