新型コロナウイルスに感染後、無精子症になったり、精子の形に異常が生じたりするという海外の研究者の報告が相次いでいる。AERA2021年5月3日-10日合併号の記事を紹介する。
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イタリアのフィレンツェ大学などの研究チームが、新型コロナウイルスに感染した33~59歳の男性43人について、ウイルスが検出されなくなってから23~49日後の精液を調べたところ、11人(26%)に精子の異常がみられた。8人は無精子症、3人は精子の数が少ない乏精子症だった。
精子の異常は、新型コロナウイルス感染症の重症度と相関関係がみられた。43人のうち5人は集中治療室(ICU)での治療が必要になるほど重症だったが、うち4人(80%)が無精子症だった。ICUには入らなかったが入院が必要だった患者26人のうち無精子症だったのは3人(12%)、入院しなかった12人では1人(8%)だった。
イランなどの研究チームは、テヘランの病院に入院した20~40歳の男性感染者84人について、退院直後から60日間、10日ごとに精液を提供してもらい、健康な男性105人の精液と比較した。感染した男性は健康な男性に比べ、精液に含まれる精子の数が10分の1程度で、精液の濃度も低く、含まれる精子の運動能力も劣っており、形が異常な精子も多かった。退院から時間が経つにつれ、精子数や運動能力は改善されていったが、60日目でも健康な男性と同じレベルには達しなかった。また、濃度や形態異常の頻度は60日経ってもあまり変化しなかった。
■発熱かウイルスか
新型コロナウイルスに感染した男性の精子に異常が生じる原因について、男性の不妊症に詳しい帝京大学医学部の木村将貴講師(泌尿器科)(*)はいくつかの可能性があると説明する。
「ひとつは発熱による影響です。もともと精子の作られる精巣内の細胞は高温に弱く、男性不妊症の心配がある方にはサウナや熱いお風呂は避けるように指導するぐらいです。感染による発熱で、精子がきちんと作られなくなった可能性があります」
おたふく風邪やインフルエンザなどほかの発熱を伴う感染症でも、感染した直後に精子が減少することがあるという。
「新型コロナウイルスの場合、別の原因として、サイトカインと呼ばれる、炎症を起こす生理活性物質の影響も考えられます。とくに重症患者では、サイトカインが大量に分泌されることが知られていて、イタリアの研究チームなどの分析でも精液中から高濃度のサイトカインが検出されています。また、ウイルス自体によって、精巣内の細胞がきちんと働かなくなる、精巣機能障害が起きているのかもしれません」
生殖能力のある精子は、精巣内の精細管と呼ばれる細長い管の中で、精子の元になる「精原細胞」が周りの細胞の助けを借りながら成熟して作られる。このプロセスで重要な精巣内の細胞の表面には、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際に最初に結合するたんぱく質が存在するため、ウイルスに感染する可能性があるのだ。
■感染しないが一番
ただし、精液中からウイルスのRNAが見つかったという報告は1件しかなく、その後は見つからなかったという報告ばかりなので、精液を介して感染する可能性はほとんどないという。
新型コロナウイルスによって損なわれた男性の生殖能力は回復するのだろうか。木村講師はこう呼びかける。
「他の感染症でも時間が経てば回復することが多いので、新型コロナウイルスも回復する可能性はあると思いますが、まだよくわかっていません。精子への影響以外にも様々な後遺症が報告されていますので、感染しないようにするのが一番です」
(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
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※AERA 2021年5月3日-5月10日合併号
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