待ち時間なし自宅でスマホ診療、処方薬は宅配…LINE×エムスリー新会社トップが語る医療サービス改革

LINEヘルスケア社長の室山真一郎氏。

LINEヘルスケア社長の室山真一郎氏。

撮影:長谷川朗

対話アプリの国内市場で覇権を握り、分厚いユーザー基盤をいかして多彩な新事業へ手を広げるLINE。圧倒的多数の医療関係者が利用する専用サイトを運営し、米フォーブス誌による2017年の「最も革新的な成長企業」ランキングで日本勢最高の5位に入ったエムスリー。両者が手を組み、オンライン診療を始めとする医療関連事業をスタートさせる計画は関係者に大きな衝撃を与えた。

参考記事LINE、エムスリーと医療プラットフォーム構築へ。オンライン遠隔診療、診察予約…広がる可能性

提携の狙いは?どんな新サービスを繰り出すのか?2社が共同で設立したLINEヘルスケアの社長を務め、LINE執行役員でもある室山真一郎氏に聞いた。

LINEヘルスケア取締役でエムスリー側の責任者である有瀬和徳氏がオンラインで「同席」した。

お互いが「最良・最適な提携相手」

LINE経済圏。

LINEは分厚いユーザー基盤をいかし、多彩な新事業へ手を広げている。

図版:さかいあい

「メッセンジャーアプリとしてのバリューだけでなく、決済からバイト探しまで、暮らしに役立つさまざまな『機能』をユーザーに提供していきたい。私たちはそう考えています。

LINEの国内月間利用者数は7800万人。日本でスマホを使っている人のほとんどすべての端末にLINEアプリが入っています。したがって、消費者向け事業についてはおおむねすべての領域がターゲットになります。

なかでもヘルスケアは非常に大きなポテンシャルを持った市場です。ほとんどすべての人が、何らかの形で健康に関する心配事や問題に突き当たるわけですから。

ただ、LINEが医療関連サービスの提供に必要な知見をすべて持っているわけではありません。日本最大の医師会員を抱えるエムスリーは最良の提携相手だと考えています」(室山氏)

「日本の臨床医の約9割にあたる27万人以上の医師会員、日本の薬剤師の半数超にあたる16万人以上の薬剤師の会員基盤」(1月8日に提携を発表した際のプレスリリースより)を持つエムスリーとの提携の狙いについて、室山氏はそう説明する。

一方、有瀬氏はこう語る。

「エムスリーは(一般ユーザーの質問に医師がネット上で回答を寄せる)AskDoctorsといったサービスをすでに展開していますが、今後の成長のためには、一般消費者向けのサービスをもっと大きくしていきたいと考えています。ユーザーが日常的に使う、エンゲージメントが高いプラットフォームを持つLINEは最適のパートナーです」(有瀬氏)

2019年中に「遠隔健康医療相談」から

病院での診療。

今は対面による診療が基本だ。オンライン診療には厳しい制限があり、普及が進んでいない(写真は本文と関係ありません)。

Michael H/Getty Images

1月8日のニュースリリースによると、2019年中にネット上で医療関係者に相談できる「遠隔健康医療相談サービス」をスタートさせ、続いてオンライン診療や、法整備の進展もみながら処方薬の宅配サービスなどを検討していくという。

「サービス展開のロードマップは検討中ですが、いずれはオンライン診療がコアになっていきます。もちろん法令を踏まえ、できることから徐々に始めていくのが大前提です。現在、オンライン診療は可能な範囲がきわめて限られており、私たちがビジネスとして取り組むのはまだ先ですが、これから規制は緩和されていくとみています」(室山氏)

パソコンやスマホのビデオ通話機能を使うなどして医師とやりとりし、患者が自宅などで受けられるオンライン診療。今は対象を糖尿病を始めとする慢性疾患に限るといった厳しいルールがあり、普及が進んでいない。

LINEヘルスケアがまず始める「遠隔健康医療相談」は、医師が病名を特定するといった「診断」はできず、「風邪予防にはよく手洗いを」といった一般的な情報を提供するサービスになる。ただ、政府はオンライン診療や、現在は薬剤師が対面で行うことが求められる服薬指導に関する規制を緩める方向で動いている。

オンラインで診療、病院予約から支払いまで

病院の待合室。

病院に行けば診察まで長い待ち時間があり、終わったら今度は処方箋をもらったり支払いを済ませたりするためにまた順番待ち。そんな体験にうんざりしたことがある人も多いだろう(写真は本文と関係ありません)。

imagenavi/Getty Images

病院に行けば診察まで長い待ち時間があり、終わったら今度は処方箋をもらったり支払いを済ませたりするためにまた順番待ち。その後は処方薬を買うため薬局へ……。そんな体験にうんざりしたことがある人も多いだろう。

室山氏の説明によると、LINEヘルスケアが将来的に提供しようと考えているサービスは、たとえばこんなイメージだ。

「なんだか具合が悪いな」と感じたら、オンラインで医療相談や診療を受ける。その結果、病院に行く必要があるということになれば、そのままスマホで適切な病院を探して予約する。その後も薬の服用を続けなければならない場合は、オンラインで服薬指導を受けて薬を宅配してもらう。この間の支払いもすべてスマホで完了——。

「日本で一番使っていただいているアプリをつくったLINEは、UX(ユーザーエクスペリエンス=ユーザーがサービスから得られる体験)やデザインといった点で優れたプロダクトをつくる知見を積み上げてきました。ユーザーが最も使いやすいプロダクトを提供できる、と自負しています」(室山氏)

この点については、エムスリー側も「期待は大きい」(有瀬氏)という。

AI・ビッグデータ活用にも大きな可能性

LINEヘルスケア社長の室山真一郎氏。

「ヘルスケア分野でもAIを活用してより良いサービスを提供できる可能性はある」と語る、LINEヘルスケア社長の室山氏。

撮影:長谷川朗

もちろん、今回の提携がこれだけで終わるはずはない。

「その先」の展開を予測するうえで、まずポイントになりそうなのがAIと医療ビッグデータの活用だ。

カルテや各種の検査結果の膨大なデータを集め、個々人にあった治療法や薬の選択、発病リスクの予測、新たな治療法・新薬の開発などに活用しようとする取り組みがあちこちで動き出している。

LINEが持つケタ違いのユーザー基盤のうえで医療関連サービスを展開していく以上、「AI×ビッグデータ」の分野に手を付けない選択肢はないだろう。

「一般論でいえば、LINEとしてはあらゆる事業についてAIを活用できる部分があると考えています。当然、ヘルスケア分野でもAIを活用してより良いサービスを提供できる可能性はあります。

例えばLINEには『Clova』というAIプラットフォームがあるので、これも活用してサービスをより良くしていこう、というイメージは持っています。

ただ、健康や医療に関する情報の取り扱いには非常にセンシティブな面があります。当局などが定めるルールを順守して進めていくことが大前提です」(室山氏)

将来の海外展開「閉ざしてはいない」

スマートフォン。

オンライン診療、処方薬の注文から支払いまでスマホでできる時代はもう目の前だ。

撮影:今村拓馬

もう一つは海外展開だ。

例えば、東南アジアではスマホによるオンライン診療が拡大している。経済成長に伴って中間層が急増し、医療サービスへの需要が高まっているのに医師が足りず、オンラインによる効率化は利用者と医療界の双方にメリットがある。

LINE、エムスリーともに海外展開の実績はすでにある。

「現時点で、海外展開について検討していることはありません。まずは日本できちんと事業を立ち上げるのが先決です。

一方で、完全に可能性を閉ざしているわけでもありません。

一口に海外展開といっても、⑴技術やプラットフォーム⑵それに乗せるサービス、という二つの形があります。⑴は汎用性が高く、国境を越えてヨコ展開しやすい。ただ、⑵は現地の法制度などによる部分も大きく、実現に向けたハードルはより高くなります。

いずれにせよニーズがあり、私たちが持って行けるプロダクトや技術があり、事業を展開できる環境があれば、決して国内に限るという話ではありません」(室山氏)

LINEヘルスケアが繰り出していく新サービスは、利用者の利便性アップにつながるのはもちろん、長時間労働が問題視される医師の働き方改革や、過疎地での医師不足といった日本の医療を巡る深刻な問題の解決に役立つ可能性を秘めている。今後の事業展開から目が離せない。

(文・庄司将晃、写真・長谷川朗)

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