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LINE社員を支えるLINE CAREの裏側(BOTを入れてみた話)

今回はLINE CAREの裏側について、LINE CARE業務を担当しているEmployee CARE室の石井と、システム導入のPMを担当しているIT戦略室の山田でご紹介いたします。まずはじめにLINE CAREについては石井から説明し、その業務システムの仕組みと抱えている課題について山田から説明いたします。

LINE CAREとは

こんにちは。Employee CARE室の石井です。LINE CAREの運営の全般を担当しています。
LINE CAREの対面カウンターとLINE@に寄せられるお問い合わせの状況を確認しながら、社員用のドキュメントを整理したり、掲示板やポスターでよくあるお問い合わせの内容について周知しています。

LINE CAREは、社員のためのコンシェルジュです。社内カフェにある対面カウンターとLINE@(以降チャットと表記します)という2つのチャネルで問い合わせを受け付けています。

両チャネルともに、基本的にはLINE社内について知りたいことや困ったことなど、社員からの質問/相談をなんでも受けています。

対面カウンターでは主にポケットWiFiの貸出や会議室用の予備イスの貸出など、対面で行う必要がある問い合わせの対応がメインとなっています。もう一方のチャットでは、社内で利用しているシステムに関するお問い合わせの対応が多いです。対面カウンターでの問い合わせと比べると、チャットの問い合わせ内容は多岐にわたります。

受付した問い合わせが、ドキュメント化されている内容であれば社内のドキュメントページのリンクを案内します。もしLINE CARE内で詳しい情報を持っていない内容であれば適切な窓口をご案内しています。(質問/相談しやすい雰囲気づくりのおかげか、「今日の夕飯は何がおすすめですか?」という相談が来たこともあります。) 

LINE CAREは新入社員が早く会社に慣れるようにするためのサポーター的な役割も担っています。LINEには毎月多くの社員が入社していますが、毎月入社日の後には新入社員から多くのお問い合わせがLINE CAREに寄せられます。新入社員だけでなく、入社してから長い社員も多くLINE CAREを利用していて、役員からもLINE CAREに時々相談があります。


LINE CAREのお問い合わせ状況

2018年8月からBOTによる自動応答を導入しました。2018年7月のLINE CARE全体の問い合わせ件数は1,164件で、そのうちチャットの問い合わせは471件と4割を占めていました。そして驚くことに、この件数の問い合わせに対応している担当者(チャット対応メンバー)は1人だけでした(対面カウンターには、当時3人いました。現在は2人)。

一度に複数の問い合わせが来ることもあるので、1人でこの数を対応するのはキツイです。さらに、毎月新入社員にLINE CAREの紹介をしていることもあり利用者は増加し続けています。(毎月入社する新入社員の数も増加傾向にあります。)

LINE社内の基本的な就業時間は10:00~18:30ですが、部署によっては朝早い時間や夜遅い時間に働いているところもあります。LINE CAREの営業時間も10:00~18:30なので、営業時間外に問い合わせが来た場合は対応ができませんでした。 

LINE CAREは、社員にとってもっと便利な環境を提供することとチャット対応メンバーの負担軽減を考え、LINE@にチャットBOTを追加することにしました。

LINE CAREのチャットシステムについて

ここからはIT戦略室の山田がご紹介します。IT戦略室では、社内システムの導入/構築・運用を行っています。

システム構成

LINE CAREではSFAツールであるSalesforceを利用して問い合わせケースの管理を実施しています。LINE CAREのチャットシステムでは、LINE公式アカウント(旧:LINEカスタマーコネクトアカウント)を利用し、LINE Messaging API・Switcher APIを活用したAIによる自動対応(以降、BOTと表記します)と、Salesforceを利用した有人対応(以降、オペレータと表記します)を切り替えています。

ユーザー側は、チャットの相手がBOTかオペレータかを意識しないで済むようにしました。そのため、ユーザーがBOTに問いかけた内容を、オペレータが確認できるようにしています。これを実現するために、Heroku上に専用のアプリケーションを構築しました。

大まかなシステム構成は以下のようになっています。

ユーザーがチャットで問い合わせた際は、必ずBOTにリクエストが送信されます。BOTで解決できない/しないとユーザーが判断した場合には、ユーザーのアクションをトリガーにして、BOTからSwitcher APIを呼び出し、ユーザーの対話相手をオペレータに切り替えます。Switcher APIでは、対話相手をBOTからHerokuアプリケーション(バックエンドはSalesforce&オペレータ)に切り替えています。ユーザーの対話相手を、オペレータからBOTに戻すこともできます。

  • オペレータ側で問い合わせが終了したと判断した場合
    オペレータが操作する画面に「終了する」ボタンが用意されています。このボタンをクリックすると、対話相手がHerokuアプリケーション(バックエンドはSalesforce&オペレータ)からBOTに切り替わります。
  • 日をまたぐ場合の処理自動的に対話相手がBOTに切り替わる仕組みも用意しました。チャットの性質上、長時間でのやりとりはありませんし、LINE CAREの営業時間も日中に限られていますので、日をまたぐことはありません。それでも、もし日をまたぐ場合は、以下のように対応しています。いったんオペレータの対応品質に関するアンケートメッセージをユーザーに送信します。送信後24時間以内に、ユーザーからの回答がない場合は、自動的に対話相手がBOTに切り替わります。なお、やり取りを再開したい場合には、オペレータ側からユーザーにメッセージを送信する仕組みも用意しています。

BOTによる自動応答を導入してからの様子

BOTによる自動応答を導入してから4ヶ月が経過した状況ですが、2018年11月の実績を紹介します。BOT対応で完結している件数が147件、BOTから有人対応に切り替わっている件数が416件と、約25%程度がBOT対応で完結している状況です。有人対応の割合が多く、あまり効果が上がっていないように思われるかもしれませんが、この数値状況になっている原因はいくつかあります。

1.BOTで対応を完結させるためのシステム反映
BOTから有人対応に切り替わった問い合わせの内容についてはできる限りBOTで対応できるように、AI対話エンジンに反映させる必要があります。新たな問い合わせ内容を追加する際には、どのような問い合わせをAI対話エンジンに反映させるべきかを選定して、ユーザー側がどのような問い合わせをしてくるのかを想定して質問文を追加する必要があります。また、既存でAI対話エンジンに追加されているが、有人対応となってしまった問い合わせについては、新たに質問文を設定する必要があります。
特に新規での問い合わせ追加については、有人対応を実施しながらとなると業務負荷が高くなり、なかなかまとまった時間を取れないため、システム反映が後手に回りやすいです。

2. 導線の問題
これはユーザビリティとトレードオフの問題です。以下の画面のように、LINE CAREでは、ユーザビリティを上げるためにBOTに問い合わせず「オペレータにつなぐ」という導線を用意しています。そのため、一定数のユーザーはBOTに問い合わせずに直接オペレータに問い合わせています。オペレータ側としては、BOTに学習させている問い合わせはできる限りBOTに解決してもらいたいという思いはありますが、そのまま有人で対応を実施しています。
実際に2018年11月は全体のうち30件の問い合わせで、直接オペレータに接続してきてしまっています。そのうち11件はBOTが対応できる問い合わせでした。オペレータに直接つながる導線をなくすことで数値的には若干改善しますが、対応を急いでいるユーザーのニーズに応えることができなくなってしまいます。

3. 問い合わせ文の問題
チャットという特性からか、真面目な社員が多いからなのか、BOTに対して人とチャットで話すように「お疲れ様です。IT戦略2チーム山田です。PCの調子が悪いのですが…」といった挨拶から始まる問い合わせ文をチャットに打ち込んでくるユーザーが一定数います。
BOT側では、このような問い合わせ文から質問を認識できないため、「質問を認識できませんでした」と返してしまいます。ユーザー側の心理を代弁すると、「長文を入力したのに期待した回答が得られない」ため、いたし方なくオペレータに切り替えているのです。
※ 口語調の問い合わせから、ユーザーの意図を認識できないわけではありません。「質問に関係がないノイズ」が多く含まれる文章の意図は正しく認識できません。

LINE CAREの今後

以上、LINE CAREの現在の状況を紹介しました。現状抱えている課題は「FAQを充実させる手段の改善」と「ユーザー教育」だと思っています。

  • FAQを充実させる手段の改善
    FAQのメンテナンスはすべて人手で行っています。Salesforce上にはメールでの問い合わせを含んだすべての問い合わせデータが蓄積されています。そこで、このデータをAI対話エンジン側にフィードバックできるような仕組みがあると、Employee CARE室のFAQをメンテナンスするコストが下がるだけでなく、FAQが充実することでBOTでの解決率が上がると考えられます。
  • ユーザー教育
    「こんな感じで問い合わせすれば良いんだ。名乗る必要が無いんだ」というイメージがユーザが持っていれば、ユーザーの問い合わせ内容も変わるでしょう。少なくとも名乗ることはないと思います。新入社員には入社時にLINE CAREのLINE@を友だち登録するようなオリエンテーションを実施しているので、そこで問い合わせ内容のイメージを伝えることで、改善しようとしています。

機能・運用面で一定の課題はありますが、「定型の問い合わせをしてくるユーザに対応するコスト」や、「時間外でも回答が返ってくる問い合わせ方法が用意されている」ことで、問い合わせを受け付ける業務の改善には役立っています。今後もコンテンツの充実やユーザーの認知度・満足度を向上させていく施策を行う予定です。チャットBOTの導入を検討されている方の一助になれば幸いです。