大阪・道頓堀の顔 くいだおれ太郎さん
大阪・道頓堀(大阪市中央区)のシンボルの一つ「くいだおれ太郎」が今年、「70歳」の古希をむかえました。人形ですが、山あり谷ありの日々を送ってきたようです。(中塚慧)
海外の人にも人気ですねん
道頓堀の中座くいだおれビルの前で毎日、小太鼓をたたく太郎さんは観光客に人気です。パキスタンから来たウマー・カーンさん(27歳)は「動きがおもしろいし、表情も豊か」と笑顔でながめていました。
太郎さんが道頓堀の食堂「大阪名物くいだおれ」(2008年に閉店)の店頭に置かれたのは、1950年。創業者の故・山田六郎さんが「これからの時代は子どもが大事」と、親しんでもらえるよう文楽人形の人形師に制作をたのみました。衣装は紅白の縦じまに丸めがね。眉毛や目玉、口が動くしくみです。会社の創業日の49年6月8日を誕生日としました。
六郎さんの孫で「くいだおれ」専務取締役の柿木央久さん(52歳)によると「子どもがおもしろがって店頭で座りこみ、親も『しゃあないから、入ろか』と入店する流れができたようです」。しかし太郎さんの「人生」は、おだやかなことばかりではありませんでした。
リストラ、ドボンくぐりぬけ
59年に「くいだおれ」の新築ビルを建てた時。銀行がお金を貸す融資の条件が「人形を撤去すること」でした。しゃれたビルに、古くさい人形は合わないとされたのです。しかし、六郎さんは「この人形は店と道頓堀の宝や」と融資を断り、自力で乗り切りました。太郎さんはリストラをまぬかれました。
最大の危機は、プロ野球・阪神タイガースが優勝争いをしていた92年に訪れました。85年に優勝した時、熱狂したファンがケンタッキー・フライド・チキンのカーネル・サンダース人形を道頓堀の川に落としました。理由は、当時選手だったランディ・バースさんに似ているから。92年に活躍していた亀山努さんはめがねをかけ、太郎さんに似ているとの声もあり「次はくいだおれの番」とささやかれました。
太郎さんは「わて泳げまへんねん」という吹き出しのパネルをつけて、対応。優勝を逃した試合の翌朝には「わて、かくごしておりましてん」という看板を掲げました。
2008年の「くいだおれ」閉店後は、CM出演などのタレント活動をしています。令和になった今年5月1日に「ええ時代になるとよろしおますな」など、時代を表す吹き出しも発表し続けています。柿木さんは「これからも道頓堀のにぎやかしでいて」と願います。
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