iPad史上最高の性能とパワーを誇るといわれる、新しいiPad Proが発売された。モンスターマシンの多彩な機能を使いこなしながら、仕事や趣味の創作活動などにその実力を存分に活用するためのテクニックを探った。
最新のA12Z Bionicチップによって力強さを増したiPad Pro
iPadシリーズのフラグシップモデルであるiPad Proには、12.9インチと11インチのLiquid Retina液晶ディスプレイを搭載する、2つのモデルがある。iPad Pro単体でも十分に魅力的なデバイスなのだが、アップルが純正のiPad Pro専用のアクセサリーとして発売している第2世代のApple PencilやSmart Keyboard Folioなどを組み合わせるとクリエイティブワークの創造性、オフィスワークの生産性が一段と高まる。
セルラー通信機能も備えるCellurar+Wi-Fiモデルをラインナップしていることが、今のところMacBookにはないiPad Proの強みだ。SIMカードとSmart Keyboard Folioを組み合わせれば、オフィスを離れてもiPad Proを片手に、どんな場所でもネットワークにつながりながら快適にテレワークが進められる。
イラストやデザインの製作にiPadの導入を検討しているのであれば、現在は唯一最大画面12.9インチのモデルをラインナップに揃えている、iPad Proがおすすめだ。画面が広く使えるだけでなく、軽く持ちやすいうえに、ダブルタップによるツールの切り換えに対応する第2世代のApple Pencilが使えるのはiPad Proだけだからだ。
最新のiPad Proには、アップル独自設計の強力なチップ「A12Z Bionic」が搭載された。筆者が普段使っている2018年発売の12.9インチのiPad Proと、静止画のレタッチ編集の速度を比べてみたところ、やはり新しいiPad Proの方がきびきびと処理をこなしてくれる。iPadOS独自のマルチタスク機能であるSplit View、Slide Overを駆使した複数アプリによる同時作業も手早く進められた。
iPad初のダブルレンズカメラを上手に使いこなす
iPadに初めて搭載された広角・超広角レンズとLiDARスキャナを組み合わせたダブルレンズカメラも、ARコンテンツを楽しむことの他にも様々な使い道が見つけられそうだ。
筆者は超広角レンズを搭載するiPhone 11 Proを持つようになってから、取材に出かけた時にインタビューの様子やイベント会場の全景を写真に収めたり、超広角カメラを頻繁に利用している。デジタル一眼レフカメラ用の超広角レンズも持っているのだが、レンズ交換の手間が掛かる割には撮れた写真のクセが強すぎて、仕事では使いづらいことも多かった。スマホでサクッと超広角レンズによる写真が撮れるようになってから表現の引き出しが増えたように感じている。
iPhoneに比べると、iPad Proのカメラは使う機会がとても少なかった。筆者は時々iPad Proに風景の写真を読み込んでトレーシングによる模写を楽しんでいる。iPad Proのカメラで撮影した超広角アングルの写真を「CLIP STUDIO PAINT」アプリで読み込んで模写してみると、目で見るのとはひと味違う雰囲気の画が描けて楽しかった。
新しいiPad Proのカメラのスペックを細かく見てみると、メインカメラ側のTure Toneフラッシュが「より明るくなった」と書かれている。撮り比べてみると人物の肌に自然な赤みが乗って、ギラつきを抑えた自然なポートレート写真が残せるようになっていた。小さな置物飾りなどを被写体にしてみても、それぞれの色味を自然に反映した穏やかな写真が撮れる。カメラの使い勝手は着実なステップアップを遂げているようだ。
新機能「スタジオ品質のマイク」の実力をチェックした
新しいiPad Proは在宅ワークや、家の中で家族と楽しむエンターテイメントも力強くサポートしてくれる便利なツールだ。
筆者もこの頃はiPad ProのFaceTimeなどビデオ通話ができるアプリを使って、取材のインタビューや企画の打ち合わせに自宅から対応する機会が増えた。新しいiPad Proには「5つのスタジオ品質のマイク」が搭載されたことが、以前のiPad Proから進化したポイントとして紹介されている。ビデオ会議の時などに相手に自分の声がよりはっきりと伝わるようになったのだろうか。
新旧iPad Proを用意して、FaceTimeアプリを使ってオーディオ通話をしてみた。会話の相手にはノイズキャンセリングヘッドホンを装着してもらって、通話音声の聞きやすさを判定してもらったところ、「新しいiPad Proの方が良好」だとはっきりとした答えが返ってきた。
マイクの音質向上を自分の耳でも確かめたかったので、新旧iPad Proの前でギターを弾きながら「カメラ」アプリでビデオを録画して、オーディオヘッドホンで聴き比べてみた。新しいiPad Proで録った音はノイズが少なく、細かい楽器の音がよりクリアに聴こえる。
余韻の階調感も滑らかだ。声にも張りがあって、力強く立体的に録れている。比べてしまうと、以前のiPad Proの音が少し貧弱に感じられてしまうほどだった。
iPad Proの「スタジオ品質のマイク」は楽器の練習にとても役立ちそうだ。録音した素材の音質が良くなると細かな音の違いに耳を傾けられるようになるし、YouTubeなどを介した動画共有も楽しくなる。
現在の状況で今すぐには難しいかもしれないが、バンドや楽団の仲間と集まって一緒に楽器の練習ができるようになった時には、全員が演奏する様子を広く動画に収められる超広角対応のダブルレンズカメラを搭載するiPad Proの魅力がさらに活きてくると思う。
エンターテインメントもiPad Proの独壇場
自宅でのんびりと趣味の時間を過ごしたい時にも、iPad Proが良きパートナーになってくれる。
iPad Proにはパワフルなステレオスピーカーが内蔵されている。本体を横向きのポジションにすると、左右に2つのスピーカーの音の出口が並んでいるのがわかるだろうか。iPad ProはDolby Atmosという立体音響技術にも対応しているので、Apple TV+やNetflixなどの動画配信サービスが提供するDolby Atmos対応の音声を収録した映画やドラマが、より迫力あふれるサウンドと一緒に楽しめる。12.9インチの大きな画面のiPad Proなら、没入感たっぷりの映像にものめり込めるだろう。
映画や音楽だけでなく、Apple Booksのオーディオブックのコンテンツもステレオスピーカーを搭載するiPad Proならより音が聴きやすい。筆者は時々、外国語の学習にApple Booksのオーディオブックを活用している。アマゾンAudibleのオーディオブックは通勤・通学の移動時間中に楽しむのにも最適なコンテンツだが、家に居ながらソファなどに腰掛けてコーヒーを飲みながら、iPad Proでじっくりと楽しむのも乙なものだ。
親子で学べるARコンテンツをiPad Proで楽しもう
新しいiPad Proにはアップルのデバイスとして、初めてLiDARスキャナが搭載された。ダブルレンズカメラとモーションセンサー、A12Z Bionicチップと連動しながらARコンテンツをより速く正確に描画する。このLiDARスキャナを活用するARコンテンツの開発キットはデベロッパに公開されたばかりなので、対応するコンテンツが出揃ってくるのはおそらく今年の秋以降になるのではないだろうか。
App Storeを見渡してみると、iPad Proですぐに楽しめるARコンテンツが、すでにかなり潤沢に出揃っている。例えば家の中を縦横無尽に歩き回りながら、空間に「AR落書き」が楽しめる「WonderDoor」は家族揃って家の中で過ごす時間を盛り上げてくれそうだ。
iPad ProやiPhoneに対応するARアプリには、ゲームのような娯楽系のもの以外にも、子どもたちの好奇心と学ぶ意欲を刺激するアカデミックなコンテンツが充実している。例えば「ヒューマン・アナトミー・アトラス」「Froggipedia」のようなARならではの視覚表現を活かした医学・理科系のアプリや、緻密なグラフィックスを楽しみながら地球環境のことが学べる「WWF Free Rivers」などをおすすめしたい。夜間の天体観測が楽しくなる「スカイ・ガイド」は、筆者もいつもアプリを立ち上げると長い時間のめり込んでしまう。
アップル純正の製品だけでなく、サードパーティのワイヤレスマウスも設定から簡単にペアリングできる。筆者はロジクールのMX Master 3をMacBookとiPad Proによる作業の両方で活用している
ノートPCを超えて、独自の魅力を開拓し続けるiPad Pro
筆者はiPad Proを仕事の現場にもよく持ち出して使っているので、よく周囲から「仕事にも不自由なく使える?」と訊ねられることがある。今までSmart Keyboard Folioがあればテキストのタイピングに苦労したこともないが、5月に発売される「Magic Keyboard」も気になるアイテムだ。
キーストローク1mmという、フルサイズキーボードの打鍵感を早く試してみたい。Smart Keyboard Folio以上に、多くのユーザーの生産効率を高めてくれるアイテムになるのだろうか。またはSmart Keyboard Folioと両方所有して、それぞれを賢く使い分ける方法もありそうだ。2018年に発売された12.9インチ、11インチのiPad Proを使っているユーザーは、自分のiPad Proにも対応しているアクセサリーであることを覚えておこう。
Apple Pencilを揃えれば手書きで会議のメモを取ったり、思いついたアイデアを書き留めておける。新しいiPad Proと当時にリリースされたiPadOS 13.4から、Bluetooth対応のワイヤレスマウスやトラックパッドもより簡単にペアリングできるようになった。
ノートパソコン感覚でiPadを使いこなしたかったという方が待ちわびていた朗報なのかもしれない。筆者も自宅でiPad Proを使う時にはマウスをペアリングする機会が増えた。タッチ操作が不要になるので、画面をきれいなまま保てるからだ。
Magic Keyboardのように、iPad Proは背面に搭載するSmart Connectorに装着できる便利なアクセサリーも今後増え続けるだろう。パソコンなみに、あるいはパソコンでは考えられなかった生産性も実現してくれる、豊かな拡張性を備えるiPad Proは次にノートPCを買い換え・買い増しする際には絶対に候補として検討すべきデバイスだ。