主体性を重視する環境は、競争とは無縁
日原翔さんのミネルバでの日々は、オリジナルかつ有意義なもののようだが、すべてのことが受け身ではいられないこともあって、決して楽ではなさそうだ。
「そうですね、なかなかハードな毎日です。
授業はすべて英語で、1コマ90分の授業が1日に2コマ、午前中にしかありませんけど、授業に出るためには事前に授業時間の少なくとも2倍の準備時間が必要です。
授業が終わればレポートを書く課題があることも多いですし、せっかく滞在している街を見て回る時間も欲しい。
食事も自炊なので、食材を買いに行ったりと生活面での自立も求められます」
それはいくら時間があっても足りなさそうだ。
ハードな生活を維持するにあたって支えになっているのは何なのだろうか。
「やらされているのではなく、好きでやっているからできるんでしょうね。
クラスメイトもがんばり屋が多いですよ。
他者と競っている感じはなくて、みんな協調し助け合っています。
思うんですけど、主体性がある人にとっては競争というモチベーションはいらないんじゃないでしょうか。
競争ベースとは別の原理で動く世の中のほうが理想的だなと思います」
学んだ知識を世の中にどう生かすかが問われている
1年次のカリキュラムは「学び方を学ぶ」ことが徹底されているとのことだったが、2年次以降はどうなるのだろう。
「通常の授業がおこなわれます。
2年の前期に僕が取ったのは、物理学と数学、政治学など。
ただし形態としてはやはり、内容は事前に文献を読むなどしてインプットしておいて、授業の90分は討論するというものです。
ミネルバの方針としては、知識を世の中にどう生かしていくかが重視されます。
僕も個人的に、学んだことは社会に還元したいという気持ちが強いので、そこは合致していますね。
3〜4年次になると自分の学びたいコースを丸ごとデザインするようになります。
自分の進む道としては、科学やテクノロジーを人のために使いたいと思っているので、そのために学ぶべきことをこれから絞り込んでいきたいです。
ミネルバ大学は教養大学なので、科学やテクノロジーに関する研究をさらに掘り下げたくなったら、専門的に学べる大学へ進む選択肢もあるかもしれません。
将来の進路は、まだそれほどかっちりと決まっていなくて、ぼんやりとしています。
でも、それでいいのかなと自分としては考えています。
自分の強みはそれほどすぐわかるものでもなくて、わからないなりに手当たり次第やってみるところから浮かび上がってくるだろうと思うので。
本人もよくわからないまま何かをやってきた積み重ねのなかから、確固たるものが見えてくるだろうと期待しています」
日原翔 1998年5月13日、埼玉県生まれ。世界最難関ともいわれるミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)の3年生。聖光学院高等学校を中退し、経団連の奨学金制度でカナダのUnited World Colleges(UWC)に2年間留学した後、2017年9月にミネルバ大学に進学。キャンパスがなく、4年間で7都市を移動しながらオンラインで学ぶミネルバ大学での体験を、メディアを通して積極的に発信し、日本の教育界に一石を投じている。ソフトバンク孫正義氏が未来を創る異能を開花させる目的で設立した孫正義育英財団の一期生にも選出されている。趣味はフリースタイルダンス。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※日原翔さんのインタビューは、10月2、4、7、9、11日に全5回配信します。今回は第4回でした。
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