空からのたより
「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように、秋のお彼岸のころになると、暑さがだんだん和らいでくるのを感じます。そして、あぜ道にさく真っ赤な花の存在に目をうばわれるのもこのころです。毎年、決まってお彼岸のころに花をさかせるので「彼岸花」と呼ばれています。「いったい、いつさいたんだろう?」と思ってしまうほど突然現れ、あっという間にかれてしまいます。
彼岸花は不思議な花です。冬に休眠する植物が多い中、彼岸花は夏の高温乾燥の季節に活動を一時停止する「夏眠」をしています。そして、彼岸のころになると地面からくきをのばしていきます。
なんと、一日に数センチものびるそうで、地面からくきがのび始めて約1週間で花をさかせます。花の寿命も1週間ほどで、成長のスピードは他の植物に比べて速いのが特徴です。
そして、花がさき終わると葉が出てきます。スッとのびた葉が何枚も出てきて、翌年の4月ごろまで葉をしげらせ、次に花をさかせるために光合成を続けているのです。
5月ごろには葉はかれてしまい、何もなくなってしまいますが、地下では冬の間にたっぷりと栄養をたくわえた球根が、再びやってくる彼岸のころに備えているのです。
こうした独特の生態にもおもしろみを感じますが、彼岸花は全国各地に群生することから多くの呼び名があり、その異名も実にさまざまです。
花がさき終わった後に葉が出てくるため、「葉見ず花見ず」と呼ばれていたり、お墓の近くにさくことが多いため「幽霊花」の名前で呼ばれたりしています。
そのほか、「曼珠沙華」という別名は有名ですが、「天界の花」という意味を持っています。「おめでたいことが天から降ってくる」という、よいことが起こる前兆とされているそうです。
秋が来たことを知らせるようにひっそりとさく彼岸花。いっせいにさきほこり、短い間に姿を消してしまいますが、そのあでやかさが私たちを引き付けるのかもしれません。
道ばたで出合う不思議な赤い花に、あなたは何を思いますか?
古庵潤子 ふるあん・じゅんこ 日本気象協会気象予報士 松山大学卒業。テレビ局勤務を経て、現在は、日本気象協会で新聞のコラム執筆などを担当している。ヨガインストラクターとしても活動中。
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