8番目の「首の骨」 発見者・郡司芽久さん
世界でもめずらしい「キリン博士」がいます。国立科学博物館の特別研究員、郡司芽久さん(30歳)。キリンの8番目の「首の骨」があることを発見し、7月には研究のことをつづった『キリン解剖記』を出版しました。多くの人に無理と言われたキリン研究者への道。朝小読者だった郡司さんは、どのように「好き」を仕事にしたのでしょうか。(猪野元健)
解剖して多くの発見に導く
Q(記者の質問) キリンの研究のことを教えてください。
A(郡司さんの答え) 行動や保護の研究を思い浮かべるかもしれませんが、私は死んだキリンを解剖(体を切り開く)して、体の構造を観察しています。10年間で約30頭のキリンを解剖しました。動物園で死んだキリンは、骨格標本や研究に役立ててほしいと研究機関にわたされることが多いです。キリンが死んだと連絡を受けると、1週間ほどの予定をキャンセルし、解剖にのぞみます。
Q 好きなキリンの解剖に抵抗はないですか。
A 「あのキリンが死んじゃったのか。残念……」と思うことはあります。でも、生き物は必ず死にます。キリンの「ご遺体」から多くの発見をしてあげて、標本として未来につなげていくことが、研究者としての一番の供養と考えています。
Q 8番目の「首の骨」を見つけたのですか。
A キリンや人など哺乳類の首の骨(頸椎)の数は、共通して7個と考えられています。でも動物園でキリンを観察していると、顔をおしりにあてられるほど首を大きく曲げます。他の哺乳類にはない特別な構造があると考えて研究を進めると、首の根元にある胴体の骨(胸椎)が、頭を動かすための8番目の「首の骨」の役割をしていることがわかりました。
「なりたい」ではなく「なる」
キリンは人気動物ですが、生息地アフリカは遠く、日本人研究者はごくわずか。絶滅が本格的に心配され始めた時期も数年前で、世界でもゾウなどより研究者は少ないといいます。
Q 昔からキリンが好きだったのですか。
A 1歳の時にキリンのぬいぐるみと写った写真が残っています。キリンの姿を直感で好きになったのだと思います。朝小では絶滅危機の動物の記事をよく読み、獣医師になって海外で野生動物の保護をしたいと思いました。それが高校生の時、自然の動物に人が手を加えることが正しいか判断できなくなり、直接的な保護ではない生き物の研究者をめざしました。
Q 好きな仕事につくヒントはありますか。
A 東京大学に入った18歳の時、キリンの研究者に「なりたい」のではなく、「なる」と決めました。大学では「無理」と100回は言われました(笑い)。でも、「なるためにどうすればいいか」と聞いて回ると、「あの人に会ったら」とヒントをくれました。カメやアザラシなどあらゆる研究者に話を聞き、解剖で体の構造を研究する道を見つけました。
子どもの時は、いろいろなことに興味を持って勉強をするのは大切だと思います。新しいことを知ると、これまで見ていたものでも「景色」がちがって見えることがあるからです。それは、好きなことをよく知るきっかけにもなります。私は今が一番キリンが好きです。
プロフィール
1989年生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科でキリンを研究し、27歳でキリン博士に。キリンの解剖数は世界一ともいわれるほど多い。2016年にキリンの8番目の「首の骨」の発見を発表。写真はキリンの頭の骨格標本と。
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