音楽はお好き?「平成の音楽をふり返って」
この30年間をふり返ると、日本の音楽界はあまり変化していないように感じられます。その前の昭和時代(1926~89年)は戦争をはさんで、前半と後半ではいちじるしく変わったのでしたが、平成の時代は、昭和の後半からの発展がそのまま続いているように思います。
クラシックとポピュラーの融合も、電子機器による演奏や作曲も、ミュージカルの流行も、昭和当時からの現象です。アニメソングなど子ども向きの歌も多く作られましたが、記憶に残っているのは「千の風になって」くらいでしょうか。
平成の時代は悲しいことに、地震や洪水などの自然災害が何度も起こりました。そのたびに文部省(現在の文部科学省)唱歌「ふるさと」が歌われ、まるで第二の国歌のようになりました。来日する演奏家も必ずと言っていいほどアンコールで取り上げ、全員で合唱する習わしです。これを機会に、昔の話がほり起こされることを期待しましょう。
また、作曲家の生まれた年や、亡くなった年から何年かたった節目を「生誕○年」あるいは「没後○年」のような形で記念することが多くなりました。これまた、私たちの知識が増えますね。現在活動している作曲家は多くなりましたが、昭和のころとはちがい、その人の専門性を強く打ち出しています。以前はモーツァルトら古典派の作曲家のように、得意でも不得意でも、すべての分野の曲を書いていたものですが、きらいなものは断るという姿勢がはっきりしてきました。
そして、現在の音楽の基礎を作った「戦後第一世代」と呼ばれる作曲家たち――團伊玖磨、黛俊郎、中田喜直、大中恩といった人たちが世を去ってしまい、それを引きつぐ存在はいまだに現れていないと言っていいでしょう。
コンピューターが行きわたり、楽譜を手で書くことが減りました。さらに、演奏の場で使う楽譜も紙ではなく、画面を見ればいいようになりました。しかしそのために、音符を書くための規則を知らない人が増えたり、出版された本としての楽譜に書きこんで音符を覚えるという習慣が消えつつあったりするのは、果たしてよいことでしょうか。
令和時代にその答えが出るのを待ちましょう。
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青島広志(あおしま・ひろし)。1955年、東京生まれ。東京芸術大学、同大学院修士課程を首席で卒業、修了。「火の鳥」「11ぴきのネコ」などこれまでに200曲あまりを作曲。著書に『クラシックの時間ですよ!』など。東京芸術大学講師、洗足学園音楽大学客員教授。テレビ出演多数。イラストも筆者
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