お姫さまのお菓子物語
ディアーヌ・ド・ポワチエ(1499~1566年)
フランス中部、ロワール川のほとりに、美しいシュノンソー城がたたずんでいます。代々女性が城主なので「六人の奥方の城」とも呼ばれます。その城主の一人が、ディアーヌ・ド・ポワチエでした。
ディアーヌは一四九九年、貴族のむすめとして生まれました。「月の女神ダイアナ」という意味の名にふさわしく、すきとおるような白い肌と、優雅な美しさをたたえる女性へと成長していきました。
十五歳のとき、ノルマンディーの領主、ルイ・ド・ブレゼ伯爵と結婚。しかし、三十二歳のとき夫が亡くなります。夫を亡くしてからのディアーヌは、生涯を黒と白の服で過ごしたといわれます。
ディアーヌは、残された二人の子どもを育てるために、フランソワ一世のむすこ、アンリ王子(後のアンリ二世)の教育係になります。
アンリ王子は、二十歳ほども年の差のあるディアーヌに恋心をいだくようになり、王位につくと、彼女にシュノンソー城を与えます。このとき、ディアーヌは五十歳でしたが、かがやくような美しさと知性はおとろえることはなく、王の心をとりこにしました。
アンリ王子は、十四歳のカトリーヌ・ド・メディシスと政略結婚しますが、ディアーヌへの尊敬と愛は生涯変わりませんでした。
一五五九年、アンリ二世が亡くなると、カトリーヌ王妃から、自分の城ショーモン城とシュノンソー城とを交換するように命令が下ります。ディアーヌは城を明け渡すと、ショーモン城ではなく、アンリ二世との思い出の地であるアネの城へもどり、余生を送ったということです。
☆月の女神のチーズケーキ
フランス人は、チーズを好んで食べますが、チーズを食べるようになったのは十六世紀ごろだといわれます。チーズは、栄養価が高く、胃腸を整えたり、骨をつくったり、健康にとてもよい食品です。当時の記録によると、タルト型のチーズケーキが流行していました。
ディアーヌは、美容と健康のためにチーズを食べることを心がけていましたから、このような月の女神を想像させる真っ白なチーズケーキが、ディアーヌの食卓を飾ったことはまちがいないでしょう。
チーズケーキは、火を通す「ベークドチーズケーキ」や「スフレチーズケーキ」と、火を通さない「生のチーズケーキ」に大別できます。
この「月の女神のチーズケーキ」は、生タイプに見えますが、実は火を通すタイプのものなんですよ。わたしが当時の資料をもとに考案したものです。特別にレシピをご紹介しましょうね。
〈材 料〉
無塩バター……80グラム
グラニュー糖……40グラム
卵黄……小1個分
薄力粉……120グラム
クリームチーズ……240グラム
グラニュー糖……35グラム
卵黄……2個分
サワークリーム……55グラム
レモン汁……2分の1個分
生クリーム……80グラム
グラニュー糖……8グラム
金ぱく……少々
〈作り方〉
① 無塩バターを室温にもどしてクリーム状にし、グラニュー糖を加えてすりまぜる。
② 卵黄を加え、ふるっておいた薄力粉を加えて切るようにまぜる。ひとまとまりになったらラップに包んで、冷蔵庫で休ませる。
③ 生地をのばしてタルト型にしき、底の部分にフォークで穴をあける。
④ 170度のオーブンに入れ、うすく焼き色がつくまで焼く。型からはずして、完全に冷ます。
⑤ ボウルに材料Aのクリームチーズを入れ、やわらかく練って、グラニュー糖、サワークリーム、卵黄、レモン汁の順に加え、泡立て器でまぜる。
⑥ 空焼きにしたタルト④に⑤を入れ、表面をゴムべらなどで平らにならして160度のオーブンで20分ほど焼いて、火を通す。表面に焼き色をつけないように注意!
⑦ あら熱がとれたら冷蔵庫で冷ます。
⑧ 生クリームにグラニュー糖を加えて五分立てにする。
⑨ 冷めたケーキの上に生クリームを平らに流す。
⑩ 写真のように金ぱくを飾る。
* *
【監修】今田美奈子(いまだ・みなこ)洋菓子・食卓芸術研究家
外部リンク