まとまった時間がとれる夏休み、ちょっと背のびした本を読んでみませんか。2019年度の中学入試の国語で出題された作品を編集部が約80校分調べ、おすすめの本を選びました。4年生、5年生のみなさんも手に取ってみてください。(山本朝子)
主人公が成長する姿をえがく
ここ数年の出典をみると、次のような傾向があります。物語文では、小学校高学年から高校生ぐらいまでの主人公が家族や友人関係でなやんだりぶつかったりしながら成長する姿をえがくものが主流です。家庭や教室での姿のほか、駅伝やサッカー、吹奏楽、短歌、俳句などに取りくむ姿がえがかれるものもあります。
説明文は世の中の関心を反映しがち。2017年度入試の『アンドロイドは人間になれるか』(石黒浩、文春新書)、18年度入試の『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』(岡田美智男、講談社現代新書)などがその例です。植物、人間(脳や心理)、社会(環境、福祉)などは定番のテーマです。
入試で出題される作品は前年の夏(20年度入試なら19年夏)までに出版されたものがめだちます。朝小で月曜日(隔週)に「楽読み楽解き国語の時間」の読解問題を出題、解説している南雲ゆりかさんもそれを意識して作品を選ぶといいます。去年の秋以降は、将棋がテーマの連作短編『駒音高く』(佐川光晴、実業之日本社)、ネットの時代ならではの読書の大切さを説く『読書する人だけがたどり着ける場所』(齋藤孝、SB新書)などを取り上げました。どちらも入試でよく出題される著者の作品です。
南雲さんは「物語文は主人公の成長のきっかけやテーマを考えながら読むとよいでしょう。説明文の内容が難しい場合、専門的な部分は飛ばし、筆者の言いたいことが短くまとまった書き出しとあとがきに目を通すのも一つの方法」とアドバイスします。
【順に書名、著作者名、出版社名(新書名)、内容紹介、おもな出題校(2019年度入試)】
『ありえないほどうるさいオルゴール店』瀧羽麻子・幻冬舎
客の心の中に流れている曲をオルゴールにする不思議な店。訪れた人たちの人生と音楽とのかかわりが見える七つの連作短編小説。
淑徳与野中、栄東中(どちらも埼玉)、愛知・東海中
『地図を広げて』岩瀬成子・偕成社
弟を連れて家を出た母が亡くなり、再びいっしょに暮らすようになった姉と弟。さびしさや傷ついた心をかかえながらたがいを思いやる。
学習院女子中等科、城北中(どちらも東京)、愛媛・愛光中
『青空と逃げる』辻村深月・中央公論新社
父が起こした事故が原因で母と逃亡生活を送る5年生の男の子。困難に直面しながらも、人のあたたかさにふれるなかで強くなっていく。
渋谷教育学園渋谷中、大妻中(どちらも東京)
『神に守られた島』中脇初枝・講談社
鹿児島県の沖永良部島で暮らす少年の目を通して太平洋戦争中の日々をえがく。地元の言葉でつづられる。続編に『神の島のこどもたち』。
武蔵中、桜蔭中(どちらも東京)
『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』こまつあやこ・講談社
マレーシアから中学2年の夏休み明けに帰国した少女がふとしたことから先輩と短歌をよみあうように。友情や恋にゆれる心を歌にたくす。
海城中、城北中(どちらも東京)、神奈川・栄光学園中
『ブロードキャスト』湊かなえ・KADOKAWA
陸上部で活躍する夢をあきらめて入った高校で、放送部のメンバーとなった少年。いつの間にか夢中になり、コンテスト出場をめざす。
埼玉・立教新座中、東京・海城中
『うしろめたさの人類学』松村圭一郎・ミシマ社
アフリカのエチオピアでの体験をもとに人類学の立場から何ができるかを考える。
開成中、豊島岡女子学園中(どちらも東京)
『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』山極寿一・毎日新聞出版
著者はゴリラ研究の第一人者で京都大学総長。ゴリラの目で人間社会を見直す。
埼玉・淑徳与野中、東京・桜蔭中、大阪・清風中
『雑草はなぜそこに生えているのか 弱さからの戦略』稲垣栄洋・ちくまプリマー新書
著者の作品は入試に頻出。植物に関するイラストももりこまれている。
埼玉・城北埼玉中、東京・大妻中、愛知・海陽中等教育
『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』山崎広子・NHK出版新書
声が持つ力、聴覚の影響などについて解説。
神奈川・栄光学園中、愛知・滝中
外部リンク